普段そんなことはしないのに、正月らしいことをしたくなって2日の初売りに二人で行った。
一時間並んで買ったのはメンズブランドの福袋で、一万円のと三万円ので少し悩んで、ぼくは一万円、進藤は三万円のものを選んだ。
「うわ、これコートが派手過ぎて着れない」
帰りに寄ったカフェで早々に中身を覗いて見ていた進藤はお目当てだったコートがハズレだったらしく、目に見えてがっかりした顔になった。
「信じらんねー、マフラーはじじ臭いし、同じ靴下3つ入ってるし、これで三万なんて詐欺じゃん」
「福袋なんてそんなものじゃないのか、ぼくの方はそんなに悪く無かったけれど」
「おまえ元からじじ臭い格好してるじゃん」
甚だ失礼なことを言って、でもそれに腹が立たないのは進藤があまりにも萎れてしまっているからだろう。
「キミね…」
本当はゴロゴロと寝正月するはずだったのを初売りに行こうと言い出したのは進藤の方だった。
どこから聞き出して来たのか、お気に入りのブランドの福袋に当たりが入っているらしいと知って俄然購買欲が沸いたらしいのだ。
「そりゃあさ、20個に1個しか入って無いって時計が当たるなんて最初から思って無かったけど、せめてコートくらい格好いいヤツが入っているかと思うじゃん」
なのにどうしていつもは店に置いて無いような、スゲエ色合いの物入れてくるかなあと、ぼくより多い金額を払ってしまったこともあってかへこみようが半端無い。
「あーあ、なんかもう今年は何もかもツイて無い気がする」
そんなことまで言い出してテーブルに突っ伏してしまったから呆れるを通り越して可哀想になってしまった。
「そんなにクサるものじゃないよ。たまに変わった色合いの物を着るのも気分が変わっていいかもしれないし、マフラーはお父さんにあげればいい。靴下はどうせ消耗品みたいな物なんだから3つ同じ物でも構わないんじゃないか」 「一万円しか出して無いヤツに慰められたく無い」 「…馬鹿だな本当に」
ぼくは自分の福袋を開けると、4つ入っていた物の内一つを取りだして目の前に置かれた彼の右腕に嵌めた。
「なん――――」
顔を上げた進藤は、自分の腕に嵌められた物を見て大きくその目を見開いた。
「時計……ええっ????」 「ぼくの方はそんなに悪く無かったって言っただろう」
進藤と共に自分の袋を開けて見た時、ダメージジーンズははけないなと思った。皮の手袋もぼくの趣味では無いし、Tシャツもなんだかぺらりとしていて合わなさそうだと思った。
でもその下に思いがけず彼が欲しいと言っていた時計があるのを見つけたのだ。
「うん。よく似合うね。あげるからこれはキミがすればいいよ」 「って、いいの? マジ?」 「タダで貰うのが気が退けるなら、靴下かマフラーと交換でもいいよ? キミ、随分悪し様に言っていたけれど、マフラーはカシミヤだし、靴下だってウールのかなり良い物じゃないか」 「…でも、おまえだって時計欲しくて買ったんじゃないの?」
受け取るべきかどうしようかぐるぐるに悩んだ顔をして進藤はぼくを見る。
「ぼくはね、確率をあげるために買ったんだよ」 「確率?」 「20分の1より、20分の2の方が時計が当たる確率が高くなるだろう?」
最初からキミにあげるために買ったものだからと言ったら、進藤はなんとも情けない顔になってしまった。
「なんだよう。じゃあ欲しくも無いのに一万も出して付き合ってくれたってことなのかよ」 「そういうわけでも無い。今まで福袋という物を買ったことが無かったから、買ってみたいと思っていたのも本当だよ。今日、キミと一緒に早起きして並んで人混みの中で福袋を買ってすごく楽しかったし、それでキミに欲しい物をあげることも出来てぼくは大満足だ」
おかげで今年は良い年になりそうだよと言ったら進藤は悔しそうに口をへの字に曲げた。
「…だからって何でたった1個しか無い時計がおまえに当たるかなあ…」 「馬鹿だなあ」
突っ伏したまま、いつまでもこぼしている彼の頭をぼくは優しく撫でてやった。
「これが無欲の勝利って言うものだよ」
もしくは愛の力かなと言ってやったら、本格的に顔を伏せて、でも見えている耳と首筋は黙って真っ赤に染まって行ったので、ぼくはそのまま撫で続け、正月早々幸せを思いきり噛みしめたのだった。
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アキラが安い方を買ったのは、最初からヒカルと違う方を買うつもりだったから。ヒカルが一万の方を買っていたらアキラは三万の福袋を買っていました。
そしてこの派手過ぎるコートは後に大阪の社の所に宅急便で送られて大変喜ばれることになるわけです。
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