SS‐DIARY

2012年10月10日(水) (SS)月よ星よと眺む


普段共に行かされることが多いので、ものすごく久しぶりに進藤とは別の人と遠方に仕事に行って、非道く寂しい気持ちになった。

同室になったその人が嫌いなわけでは無いし、一緒に居てつまらないというわけでも無い。

仕事自体は楽しかったし、その町も人も温かかった。

地酒も料理も美味しくて、郷土芸能だという舞も見せて貰って興味深かった。

(なのになんでだろう)

夜になり布団に入ってもなかなか眠ることが出来ない。

じっと目を瞑り続けても何時間も眠ることが出来ず、とうとう諦めて布団から起きると、窓際に置かれた椅子に座った。

(こういう時、緒方さんは煙草でもふかして暇を潰すんだろうか)

進藤は携帯方のゲーム機を持っていて、以前はそれで眠くなるまで時間を潰したと言っていた。

以前はと言ったのは最近はほとんどぼくと一緒なので、もっと楽しい過ごし方を覚えたからだ。

ぼくは……というと思い出せない。

進藤と一緒の時は他愛無い話でも楽しくてたまらないし、気がつけば眠って朝はすぐにやって来た。それ以前はたぶん、何もせずに眠ってしまっていたのだろう。

もともとそんなに寝付きの悪い方では無いのだ。

「…なのに」

窓からは煌々とした月の光が差し込んで来る。

星はほとんど見えなくて、暗い空は濃く深い青色だった。

襖一つ隔てた和室では同室の人が余程疲れたらしく軽く鼾をかいて眠っている。

(今、ここにキミがいればいいのに)

唐突に思った。

宿の下は渓流で、眺めれば月の光が映って美しい。

こんな中で明りをつけず、月の光に照らされながら打ったらどれほど楽しいことだろうか。

「綺麗だな」

こんな綺麗な月をきっと進藤は見ていない。

鬼の居ぬ間のなんとやらで和谷くん達と遊びに行ってしまったかもしれず、そう思うと少しばかりムッとした。

(浮気者)

軽薄、軟弱、八方美人。

胸の中で罵ってから、再び輝く月を仰ぎ見た。

(…早く明日になればいいのに)

思わずぽつりと言葉が漏れてしまう。

(朝になって東京に戻って、そして―)


『キミに』

『早く』

『会いたい』


気がつくと手は携帯を握り、進藤にメールを打っていた。

送信し、そのままそっと胸に抱く。

返事は来るかもしれないし、来ないかもしれない。

取りあえず来たらそこで眠り、来なかったらしばらく月を眺めていようとそう決めた。

(…進藤)

少し離れただけでこんなにも脆くなる。

ぼくをダメにした責任をちゃんと取るがいいと呟いた時、胸元で携帯が静かに震え出し、ぼくは微笑んだのだった。


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マナーモードです。そして相変わらずうちのヒカアキはどっちもガラケーです。ヒカルは好きそうだけど、アキラは面倒臭いと持たなさそうだし、たぶん当分スマホにはなりません。


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