SS‐DIARY

2012年09月16日(日) (SS)頑固で意固地で可愛くて


「ぼくはキミが好きだけど、それの何がいけない?」


薄々そうじゃないかと思っていたことを二人きりになった時思い切って尋ねてみたら、いきなり紋切り口調で返された。

にこりともしないその顔は相変わらず整っていて美しかったけれど、瞳は憎んでいるのではないかと思うくらい厳しい色でおれを睨んでいる。


「別に悪いなんて言ってないじゃん」

「だったら放っておいてくれ、ぼくがキミを勝手に好きなだけでキミには関係無いことだから」

「関係無いって、おまえおれのこと好きなんだろ?だったらばっちりおれにも関係あるじゃんか」

「どうして? これはぼくの気持ちの問題なんだからキミには関係無いだろう?」

「は? っか、なんでおまえ喧嘩腰なの? 本当におれのこと好きなのかよ」

「好きだよ。最初から好きだって言っているじゃないか。なのにキミがごちゃごちゃとうるさいことを言うから」


人のことなんだから気にせずキミはキミの好きなようにしていればいいじゃないかと、ここまで相手を突き放した恋の告白をおれは知らない。


「だったらそれにおれの気持ちはどう関わって来るんだよ。好きって言うのはそういうことじゃないだろう」


つられるようにおれもムッとした目で塔矢を睨んだら、塔矢は更に険のある瞳できっぱりと言い切った。


「そういうことだよ」

「は?…え?」

「キミはどうなのか知らないけれど、でもぼくにとっては少なくてもそうだ。キミのことをずっと好きだけど、それはぼくだけの問題でその気持ちをキミに押しつけたり、応えて貰おうなんて思ってはいないから」


潔いと言えば潔い。でも、おれには塔矢の言葉はとても冷たく耳に響いた。


「じゃあ、何? おれが他のヤツを好きでも、おまえのこと好きじゃなくても構わないってこと?」

「そうだね」

「そんなの変だろう」

「変じゃない。そもそも好きだからって相手にも好きになって貰おうって言う方がおこがましいんだ」


なにをどういう育て方をしたらこんなガチガチに頭の固いヤツが出来るのかわからないけど、おれはおれを好きだということをそんな風に言って欲しくなんか無い。ましてや自分も好きな相手にだったら尚更だ。


「だったらおれの気持ちはどうなるんだよ。完全に置いてきぼりにされてるじゃんか」

「キミの気持ち?」

「おまえは自分の問題だから放っておけって言うけど、じゃあおれのことを好きなおまえをおれも好きだった場合はどうなるんだよ?」


おれだって好きだった。

この煮ても焼いても食えないような石頭をずっとずっと好きだったのだ。


「おれはおまえみたいには考えられない。好きだったら相手にもおれのことを好きになって貰いたいし、もし好きじゃないんだったら好きになって貰えるように努力したい。だって」


そういうものなんじゃないか?

恋というのは。


「好きで、好かれて、お互いに好き合って‥そういうものなんじゃないのかよ」


目力に負けないようにぐっと腹に力を入れて正面から言ったら、塔矢は初めて表情を微妙に歪めた。


「だって、そんな…」

「そもそもおまえ、おれのどこを好きなんだよ。それで、一人で好きでいてその先どうするつもりだったんだよ」

「キミのどこを好きだなんて、そんなこと考えたことも無い。…それにキミとどうなりたいかなんて…」

「だったら考えろよ。そんないい加減な『好き』、おれは認めないからな」

「は? ぼくの気持ちがいい加減だと?」

「聞かれて答えられないんだったらいい加減だろう」


はたと睨み合いのようになってしまった。


「…だったらキミはぼくのどこが好きなんだ。そしてぼくとどうなりたいんだ」


挑むように言われておれは答えた。


「おれはおまえのこと全部好きだよ。今こうして訳わかんないことクソ頑固に言い張っている所とかも全部含めて好き。そしてそんなおまえとおれは一生一緒に居られたらって思ってる」


笑って、泣いて、怒って、苦しんで、けれどまた再び笑う。

これから先の人生の、一分一秒全てを塔矢と二人で分かち合いたい。


「好きだから触りたいとかも思うし、抱きしめたいし、もっと色々好きじゃなきゃ出来ないようなこともしたいと思ってるし」


なのに放っておけと言われたら触れることすら出来ないでは無いか。


「手ぇ繋ぎたいとか思っちゃダメなのかよ。好きって気持ちで思いきり抱きしめたりとか、そういうこと全部おまえは無意味だとでも思ってんのかよ」

「そんなことは…無い」

「キスしたいとか、そういうのも思わないわけ? おれは思うよ。好きだから。おまえの色んな所触りたいし触られたいとも思うし」


けれどそれは塔矢が言うような一人きりの『好き』には存在しない。相互でなければ絶対に叶わないことなのだ。


「おまえは、おれに触りたいと思わない? おれに触られたいとかそういうのも全然思わないんだ?」

「そんな生々しいこと、ぼくは考えたこと―」

「無い?」


遮るように尋ねたら憮然とした表情で塔矢はおれから顔を背けた。


「なあ、どうなんだよ。無いのかよ、あるのかよ」

「…い」

「え?」

「しっ…知らないっ」


もごもごと言いかけた後、いきなり逆ギレのように怒鳴られた。


「そんなことキミに答える必要もなければ義務も無い」


ぼくが勝手にキミを好きなんだからそれでいいじゃないかと、結局最初に戻ってしまった。


「…じゃあさ、おまえの気持ちは置いといて、おれがおまえを好きってことにはどう思うわけ?」

「キミの好きにすればいいじゃないか」


視線を微妙に合わせないようにしながら塔矢が言う。


「本当に好きにしちゃっていいわけ?」

「だってそれはキミの勝手だし、ぼくがとやかく言うことじゃ―」

「わかった! 勝手にやってやるよ」


そして有無を言わさず顎を掴むと、驚いて目を見開いている塔矢に深くキスをしてやった。


「何をする―」


すぐに突き放されて思いきり睨まれたけれど、そんなの全然怖く無い。だって塔矢の首筋はおれがキスをするずっと前から鮮やかに赤く染まっていたから。


「おまえが言ったんじゃん、おれの好きにしろって。だからやりたいようにやらせて貰ったんだ」

「こんなことをしろなんてぼくは言って無い!」

「それでもおまえには関係無いだろ。おれが勝手におまえを好きで、それでやりたいと思っていることをやりたいようにやっただけなんだからさ」


おまえはおまえで好きなようにすればいいじゃんかと言ったら、むうっと顔が不満そうになった。


「屁理屈をこねるな」

「だったらおまえも変な理由で自己完結するのやめろ!」


目を逸らさずに向き合っておれと恋愛してくれよと言ったら、再び不自然なくらい視線を逸らされてしまった。


「おまえ男らしいし、譲れないものが在るのも解るけどさ、それでもおれのこと好きなんだったら、おれにもちゃんとおまえのこと好きでいさせろ」

「ぼくは―」


突っぱねるか、逆ギレるか、それとも想定外にデレてくれるか。

じっと様子を見守るおれを塔矢は恨めしそうに見詰め返し、それからしばらく黙った後に、思いがけないほど静かな声で「ごめんなさい」「ほくのこと…好きで居て欲しい」とぽつりとふたこと言ったのだった。



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