SS‐DIARY

2012年09月12日(水) (SS)友情片想い


聞くだけ馬鹿馬鹿しいと思いながら進藤に尋ねた。

「なあ、おまえって塔矢のこと好きなの?」

もう端から見てるだけで解る、隠すつもりもこれっぽっちも無い両想いのバカっぷるに何を今更という気もするけれど、一応友人としてケジメというか気持ちの上で切りをつけるというか、言葉にしてはっきりさせて欲しかったのだ。

すると、気怠そうに対戦表を眺めていた進藤がちらりと目を上げておれに言った。

「じゃあ和谷は和谷なわけ?」
「は? なんだよそりゃ、おれがおれで無くてどーすんだよ。おれは和谷だよ、和谷義高だよ」
「だったら阿保なこと人に聞くんじゃねーよ」

そう言われて目をぱちくりとさせてしまった。

「こっちこそ『は?』だよ、わけわかんねえ」
「なんで? 全く同じことじゃん。おまえが和谷だって言うのと同じくらい」

おれが、塔矢を好きだってことは当たり前過ぎるくらい当たり前なことなのだと、しれっと言われて鼻白んだ。

「それって、細胞レベルまで惚れてるってこと?」
「さあね、でも時々おれ、あいつに触ってると、端から溶けて混ざるような気持ちになることあるから」

指と指を絡ませた、そこから形を失って一つに合わさって行くような気持ちになるのだと。

「解けて、なんだかよく解んない液体みたいになって、それでもう永久に離れない…みたいな」

それくらい塔矢とおれは近いし、他人だと言う気がしないと、もしこれを言ったのが進藤じゃなかったら気色悪いことを言うなと切り捨てたことだろう。

でも進藤はあくまでも真面目に幸福そうに言うものだから、気色悪いと思う代わりになんだか悔しいような気持ちにさせられた。

「そんなスライムみたいになったおまえとは、おれ付き合ってやんねえ」
「えーっ、嫌うなよ。ぐちゃぐちゃでもおれはおれじゃん」
「だってそれ、塔矢が混ざってるんだろ? 嫌すぎ」
「まあ、おまえあいつのこと嫌いだもんな。でも―」

時既に遅し。もうおれの中にはあいつが少し混ざっちゃってるかもしれないぜと言われ、にっと笑われてぞっとした。

その笑みの中に、一瞬確かに塔矢の面影を見たような気がしたからだ。

「どうすんの? そうなったら、ぜっこーでもする?」

おれの表情の細かな動きを敏感に読んで進藤が尋ねて来る。

「…しねーよ」
「ふうん?」
「おまえらじゃあるまいし、一度ダチだと思ったヤツをちょっと混ざりもんがあるくらいで切ったりしないって」
「でもスライムは嫌なんだろ?」
「だから―混ざるにしても半分くらいで止めとけって言ってんだ」

それくらいなら許容範囲内だからと言ったらきょとんとして、それからいきなり進藤は笑い出した。

「わかった、半分な。んー…でもやっぱもうちょっとあいつにはおれをやりたいから、9:1の割合でどうだろう?」
「は?」
「おまえとの友情分に少しだけ残しとく。それでいいよな」
「少なっ!」
「少なくてもあるだけいいじゃん」

そしてげらげら笑いながら進藤は再び対戦表に戻った。

「なー、和谷。これこのままでもいいけどさ、最近望月さん休みが多いからちょっと組み合わせ変えた方がいいんじゃね?」

おれの作った対戦表を指で指しながら、ああしたらどうだ、こうした方がいいとつい今し方の会話なんか無かったみたいに話をする。

「ああ、それはおれも思ってんだけどさ、だからって途中で外せないじゃん。また急に来るかもしんないし」

おれもおれで聞いたことなんか忘れた風に、碁のことに会話を切り替えた。

でも、尋ねる前と後じゃ全然違う。

用紙を指さす進藤の、その指が塔矢と混ざり合っているかもしれないことをおれはもう知っているし、進藤の中に塔矢の欠片が散らばっていることも知っている。

(初めて会った時は、ただのちびっこいガキだったくせに)

そのガキが成長して、今当たり前のように、その命のほとんどをあのクソ憎たらしい塔矢アキラに捧げている。それがとても不思議だった。

(でも、最初からそうだったか)

進藤も塔矢もどちらも最初っからお互いのことしか見ていなかった。その関係は友達とか親友とか、そういう括りでは絶対に無かったとそう思う。

「まあ…それでも、おれの分残してくれたんだから」

それに免じて文句は言わない。

「ん? なんか言った?」
「いーや別になんにも言ってねえ」

院生になってから、ずっと一番側に居て、一緒に成長して来たのはおれじゃねーかと言いたくて、でも代わりにこう言った。

「おまえ最近だらけてるから、もっと対戦増やしてもいいかもなあ」
「マジ? ちょっと勘弁」

(塔矢はきっとそれでも不満に思うんだろうけど)

たぶん本当は一割にも満たないだろう、あいつの中のおれへの友情。

でもそれがあると解っただけで、少なくともおれにとっては、思い切って進藤に尋ねただけの価値は充分にあったのだった。


※※※※※※※※※※※

解り難い話でゴメンナサイ。あくまで友情です。でもなんかあるじゃないですか、おれはこいつのこと友達だと思ってるけど、こいつはどーなんだよみたいなの。

どうせ100パー塔矢なんだろうなと思っていたら思いがけず自分への気持ちもちゃんとあったのでびっくりしてちょっぴり嬉しかった和谷の話でした。(説明長いな(^^;)


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