SS‐DIARY

2012年09月03日(月) (SS)おれの気持ちは変わらないから


好きな人と一生一緒に居られる確率って一体どのくらいなんだろう?

どれほど好きでも途中で離ればなれになることだってあるだろうし、進学、就職で別れたって話は腐る程聞く。

新しい環境の中で新しい人と出会ってそちらに惹かれてという話も珍しくは無い。

そうで無くて結ばれても途中で気持ちが冷めるというのも非常によく聞く話だ。

どんなに好きで愛していてもその気持ちが永遠に続くかどうかは当人同士にだって解らないだろう。

(だから、そう考えるとぼくは運がいい)

お互いに棋士であることは一生だと思っているから、離ればなれになるということは無いし、極端に環境が変わるということも無い。

新しい人との出会いもそれなりにあるけれど、それだって同じ世界の人間とというのがほほとんどだ。

途中で気持ちが冷めるというのは有り得るかもしれないけれど、もしそうなったとしても会えなくなるということは万が一にも無い。

ぼく達は同じ世界で同じ環境で顔付き合わせて日々戦っているのだから。
そう考えると棋士で良かったと心の底から思う。

そしてまた彼も棋士で良かったと同じくらい強い気持ちで思うのだ。

「ぼく達は、どんなことがあっても離れることは無い」

永遠に同じ世界で生き続けることが出来る。

そのことを考えて、ぼくは例えようも無い幸運を常に一人噛みしめるのだ。


*****


塔矢は時々、これが最後というような目でおれを見る時がある。

もちろん気持ちが冷めたとか、おれと別れたくなったとかそう言うのでないことは表情をみればよく解って、だったらじゃあまたきっと心ん中で変なこと考えてんだろうなと思う。

(また、おれと別れた時のことでも考えてるんだよな、きっと)

おれの中には無いのに、塔矢の中には常におれと別れるかもしれない未来というものがあってそれが時折心を横切るらしいのだ。

おれだってもちろん馬鹿じゃない。関係を続けるのが容易ではないことぐらい解っているし、いつか選択を迫られるような事態になるかもしれないことぐらい解ってる。

「でも、そんなの関係ないもんなあ…」

塔矢がどうだか知らないけれど、おれは塔矢と別れて生きてなんかいけない。

だから絶対に別れない。それだけはずっと決めている。

「あいつにとっては迷惑かもだけど…」

(こっちには死活問題だから)

同じ世界に居られれば良いなんて、そんな温い関係はまっぴらだ。だからお
れは塔矢を愛する。

全力で、愛し抜こうと思っているのだ。


*****


「嫌だよ」
「それでもおれ、別れないし」

本当の別れ話では無い。もしもの話をしていてそうなった。

「自分達で思っていても、叶わないことだってあるじゃないか」
「それは自分ら次第じゃねーの? 別れないって決めてるものを誰も本当には別れさすことなんか出来ないって」

「キミはいい、そんな風に出来るから、でもぼくは―」
「出来ないって思ってるだけだろう。おれだって別に平気じゃないよ。平気じゃないけど、おまえと別れるなんて絶対嫌だから」

もし本当におまえがおれから離れようとしたら、おまえを無茶苦茶傷付けるよと言ったら驚いたような顔をされた。

「出来ないって思ってる? おれ、おまえが本当に嫌だと思うこと平気でダース単位で出来るよ。それを一つ一つおまえが壊れるまでやってやってもいい」

「…そんなことをされてキミを愛せるとでも?」
「違う。愛してるから壊れるんだ」

だからおれにそんなことをさせないように、いい加減おまえも腹括れよと言ったら塔矢は黙って俯いて、「キミは非道い」と泣いたのだった。


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