『キミが好きです』
そう言おうと思っていた。
胸に抱えた気持ちが重くて、どうしても伝えたくてたまらなくて、随分長い時間をかけて、そのひとことを練習したのに、進藤を前にした途端、それらは全て消え失せた。
「何? どうかした?」
話があると呼び出して、切り出しかけたのはいいけれど、その瞬間、頭の中は真っ白になった。
「ぼく…ぼくは…」
情けない。
棒杭を飲み込んだように背中はぴんと真っ直ぐ張って、でも顔は正面を向けない。
手足は震えて声も震えて、たったひとことのこんな短い言葉がどうしても喉から出なかった。
「…おまえ、顔色悪いよ。マジでどーかした?」
呼び出しとその後の挙動不審を悩み事の相談と受け取った進藤は心配そうにぼくを見詰めた。
「もしかして誰かに何か嫌がらせでもされた?」 「ちが…」
側に寄られて顔をのぞき込まれて、心拍数が一気に上がる。
「なんだかんだ言って、やっぱりおまえは結構当たりがキツいもんな。この前リーグ入りしたばっかだし、それで何かされてんだったら―」 「違う! そうじゃないんだ!」
叫ぶように言って、それからあまりの息の苦しさに胸を押さえた。
「大丈夫か?」 「進藤…-ぼく…ぼくは…」 「ん?」
促すような優しい声にありったけの勇気を振り絞る。
「ぼくはキミが好きでつ」
噛んだ――――――――っ!
言った瞬間、蒼白になった。
一拍おいて、ぶはっと進藤が吹き出す。
「おまえ…」
一世一代の告白を失敗した恥ずかしさと、それを笑われた悲しさでぼくの頬は朱に染まり、それから涙が目尻に溢れた。
「どうせ―ぼくなんて」
ぼろぼろと涙をこぼした途端、進藤は笑い止んで、次にあたふたと慌てふためいた。
「わーっ、違うよ、違うって」
馬鹿にしたんじゃないんだってと、それこそ馬鹿のように進藤は『違う』という言葉を繰り返した。
「マジで違うって! ただあんまりおまえが可愛かったから」
それで笑っちゃったんだよ、ゴメンナサイと言ってぎゅっとぼくを抱きしめる。
「台無しにしちゃってごめん。傷付けちゃってごめん。先越されちゃったけど、おれもおまえが好きでつ」
噛み返した―――――――――――っ!
一瞬わざとだろうかと思い、でも目を上げたらすぐ側に見える彼の首筋が真っ赤に染まっていた。
ぷっと、気がついたら吹きだしていて、その瞬間進藤がぼくから飛び退いて叫んだ。
「しょっ、しょうがないだろうっ、噛んじゃったもんは!」
どうせおれはキマリませんよ、カッコワルイよ、最低だよと息つく暇も無いくらい自虐の言葉を並べ立てる。
「どうせ、どうせおれなんてっ!」 「ち、違うよ。失敗して真っ赤になっているキミが可愛かったから―」
言って、それが先程進藤がぼくに言った言葉と同じだと気がついた。
沈黙し、それからゆっくりと染まったままの顔で見つめ合う。
「あの―」 「あ、おれさ」
そして同時に笑い転げた。
ああ、なんて格好のつかない。
けれどとてもらしいとも言える。
ぼく達はひとしきり笑い合うと幸せな気持ちで笑い止み、それから改めて今度は失敗することも無く、互いの気持ちを相手に伝えたのだった。
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これももしかしたら以前同じようなネタで書いたかもしれませんです。でもこういうのが好きなんで、出来たら勘弁してやって下さい。
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