SS‐DIARY

2012年08月07日(火) (SS)致すことになりました


触れるようなキスから始まって、少しずつ深く触れ合うようになって、いよいよしようかということになったのだけれど、これがなかなか上手くいかない。

行為がでは無く、する、その時がなかなか設定出来ないのだ。

「次の日曜空いてる?」
「ごめん、その日は庭師さんが来ることになっていて」

「じゃあその翌週のオフは都合どう?」
「お母さんに頼まれて、親戚の家に行くことになっているから」


この日はダメ、あの日もダメ。

手合いの後、食事をしたり一局打つ時間はある。けれどいざじっくりとするということになると、おれと塔矢のスケジュールが合わない。

「なあ、いっそこのままホテル行かねえ?」

あまりにも予定が立てられなくて焦れたおれは、夕飯を食った帰りに目に付いたホテルを指さした。

「ちょっと慌ただしくなるけど、予定があってもここから直に行けばいいだろう」
「ごめん、今日はあの日だから」
「あー…それじゃダメか」

うっかりと納得しかけて怒鳴りつける。

「阿保か、おまえ男だろう!」
「ぼくは別に…お父さんから夜電話がある日だからって」
「いーや、今のは絶対そういうニュアンスじゃなかった」

オンナがよく使う常套手段。やんわりとやりたくない時に断るのには最適な理由だと、いくらおれだって知っている。

「おまえ…もしかして、したく無いんだな」
「そんなことは無いよ」
「だったらなんでそんな嘘つくんだよ」

さては今までのも嘘だなと迫ったら、おれの目は見ずに、でも嘘じゃないと言い張った。

「じゃあ、明後日の金曜はおまえ大丈夫だよな? おれ事務室に行って何も予定が入って無いこと確かめてあるんだからな」

「でも翌日は和谷くんの研究会があるんだろう?」
「そんなのいいよ、午後からだし。別にフケたって誰も文句もいいやしないし」

「あ…でも、金曜日は碁会所に顔を出さないといけなかったかも…」
「じゃあ土曜。土曜もまさか用事があるとは言わないよな?」

「土曜は……あの日だから」
「その手はくわねえって、さっき言っただろう」

それともあるのか、本当にそーゆーものがおまえには来るのか、だったら今すぐ見せてみろよと服を掴んだら真っ赤な顔で殴られた。

「あるわけ無いだろうっ!」
「だったらそんな見え透いた嘘つくな」

「だって…やっぱり…その…」
「何? 怖い? それともそもそもおれとすんのが嫌?」

「怖い…は怖い。でもキミとが嫌だなんてそんなことは無い」
「だったらいいじゃん。今日だって本当はいいんだろう」

じっと顔を見詰めると塔矢は何も言えずに俯いた。

「じゃあ、いいじゃん。今日行こうぜ、やっちまおう?」
「そういう言い方は…」
「男のくせにあの日がどーとか言うヤツに何も文句言われたくねえ」

びしりと言ったら塔矢は世にも情けない顔になった。

「そっ、そうだ、今日は見たいテレビがあって―」
「ラブホにもホテルにもテレビなんざついてるよ」

「今日は実はお腹の調子が悪くて…」
「あー、平気。おれスカトロでもなんでも許容範囲広いから」

「でも、やっぱり今日は危険日だから」
「だからどこのオンナだよ、おまえっ!」

不毛な、たまらなく不毛な言い争いを小一時間は続けただろうか?

とうとう言い訳のネタが尽きて何も言い返せなくなった塔矢をおれは宅配の荷物の如く腰に手を回して抱えると、かねてからの念願を果たすために、無理矢理ホテルに引きずって行ったのだった。

※※※※※※※※
往生際が悪い若先生。


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