SS‐DIARY

2012年07月30日(月) (SS)そういう男



休日に塔矢と一緒にテレビを眺めていたら、CMにオリンピック出場選手が出ていた。

「あ、××選手だ」
「どの人が?」
「え? 今のCMの…」
「へえ、そうなんだ」

少しして、またCMタイムになった時、また別の選手が今度はオリンピックそのもののCMに出ていたので「おっ、×△選手じゃん」と言ったら再び「どの人が?」と聞かれてしまった。

「おまえ…いつも新聞とか、すげえじっくり読んでるのにオリンピック出場選手も知らないのかよ」
「失礼な。ちゃんと知っている。××選手に○×選手に△村選手に…」

ぞろぞろとびっくりする程名前の羅列が続く。

こいつはお見それしましたと、じゃあたまたま知らない選手が出ただけだったのかなと思いつつ、テレビがオリンピックの中継になったのでなんとなくそのまま見ていたら、さっき塔矢が言った選手が競技に出ていた。

「あ、ほら! ○×選手」
「………どの人?」
「ついさっき、おまえが言った人だってば!」

キレそうになって指さすと、しげしげと見た後で「へー」と感心したように言った。

「なるほどこの人がそうなんだ」

ぼくはテレビをほとんど観ないし、名前でしか知らないものだからと言われて納得しそうになって突っ込んだ。

「新聞にも写真ぐらい出てるだろう?」
「出ているけれど、全員は出ないじゃないか。賞を取って表彰されれば大きくカラーで載るから、そうしたらいくらぼくだって忘れ無いよ」

ムッとした口調でそう言われ、いや確かにそうかもしれないけれどと思ってしまった。

逆を返すと、そのくらい著しい成績をあげないと名前と顔が一致しないということになる。

(こいつの記憶に残るには、トップに立たないとダメなんだなあ)

無邪気に競技に感心している塔矢を見ながら、おれはなんだかぞっとして、もっと頑張らなくちゃいけないなとしみじみ思ってしまったのだった。


※※※※※※※※※※※

いや、ヒカルのことを忘れることは絶対無いと思うんですがね。


 < 過去  INDEX  未来 >


しょうこ [HOMEPAGE]