日帰りで地方に行った時のこと、昼休みに皆で食事に行こうと歩いていたら、神社に茅の輪があるのを見つけた。
「なんだあれ」
見た瞬間、進藤と和谷くんが近づいて行って、冴木さんもつられるように後に続く。
ぼくと越智くんはその場で待っていたけれど、なかなか戻って来ないので仕方無く同じように鳥居をくぐった。
「なーなー、これ何?」
すりすりと輪の側面を撫でながら進藤がぼくに聞く。
「茅の輪だよ、見たこと無いのか?」 「だってあんまり神社とか来ないし」
確かに進藤は神社仏閣に興味が無いし、これも普段からある物でも無い。知らないかもしれないなと思った。
「おれ知ってる。ここくぐるんだろ?」
和谷くんが見上げながら言ったけれど、その意味までは知らないようだったので口を開く。
「これは―」 「夏越の祓ですよ。知らないんですか? 毎年6月30日に行われる神事で、これをくぐることによってその人の罪や汚れが落ちると言われているんです」
ぼくが言うより早く、越智君が茅の輪の説明をした。
「ちなみに12月のは年越しの祓と言います。大晦日に来ればまたありますよ」 「へー、罪と汚れね。せっかくだしみんなでくぐって行くか?」
御利益あるかもしんないしと、和谷くんが早速茅の輪をくぐった。
「じゃあおれもくぐるか、今期成績今ひとつだしな」
付き合い良く、冴木さんもそれに続く。
「進藤は? くぐらねーの?」
興味があったようなのに、動かない進藤に和谷くんが言う。
「いや、おれはいいや」
思いがけず進藤がきっぱりと言った。
「うっかりくぐって大事なモンまで祓われちゃったら嫌だからおれは止めとく」 「なんだよ、それ、越智と塔矢は?」 「ぼくはくぐりますよ」
当たり前でしょうと眉一つ動かさずに越智くんがくぐった。
「ぼくは―」
目の前の茅の輪を見上げてぼくは躊躇った。
もっと小さい頃には両親に連れられて茅の輪をくぐったことがある。
悪い物を落としてくれるのよと優しい声で説明して貰い、緊張しながらくぐった覚えが確かにあった。
(でも)
「ぼくも止めておくよ。罪も穢れも自分の物はどんな物でも落とさず持っていたいから」
その瞬間、ちらりと目だけ動かして進藤がぼくを見たのが解った。
ぼく達はお互いの夜の顔を知っている。
交わっているぼく達は、穢れていて罪を犯しているのかもしれない。
でもそれが罪であり、穢れであると言うのなら、ぼくは祓わずに持っていたいとそう思った。
「おまえら変わってんなあ」
呆れたように和谷くんが言った。
「…リーグ入りした人達はさすがに言うことが違いますよね」
少々嫌味もこめて越智くんも言う。
「まあいいじゃないか、こういうのは個人の自由なんだしさ」
それよりさっさとメシ食いに行こうぜと、取りなすように冴木さんが言ってぼく達はバチ当たりにもお参りもせずその神社を後にした。
「なあ、おまえなんであの輪っかくぐらなかったん?」
皆から少し離れて歩きながら、ふと進藤がぼくに尋ねた。
「別に、キミこそどうしてくぐらなかったんだ」 「…なんとなく」
彼の理由とぼくの理由が同じかどうかぼくは知らない。
でも全く違っているとも思わなかった。
「言っただろう、強欲なんだ」 「ふうん、おれはおまえほど欲の皮が突っ張ってるわけじゃないんだけどさ」
それでもきっとこれからも、一生アレはくぐらないと思うと生真面目な顔で言ったので、ぼくは思わず微笑んで、「そうしてくれ」と返したのだった。
|