SS‐DIARY

2012年06月25日(月) (SS)初夏のパン祭り


女三人寄れば姦しいと言うが、男が三人以上集まるとバカな話しかしない。

どんな女がタイプとかそういうものならまだマシで、大真面目でお前らは小学生か!というようなことを話し合っていたりする。

今日はパンについてだった。

「うーん、やっぱ奈瀬はメロンパンだろう?」
「じゃあ桜野さんはクロワッサンな」
「一柳先生はアンパンだと思うなあ」
「だったら座間先生はカレーパンか?」

何かというと、人をパンに例えたら何パンかという実にくだらないことだった。

「本田さんはアレ、田舎パンとか言うやつなんじゃね?」
「はあ? だったら和谷はジャムパンだな」
「なんでおれがそんなつまんねーパンなんだよ。せめてピザとか言えよ」
「ピザ? そんな洒落たもんかよ。精々焼きそばパンだな」

理由も根拠もあまり無い。皆ぱっと思い浮かんだものを言い並べているだけなのだけれど、これが案外イメージに合っている。

「進藤は二色パンな」
「はあ?」
「クリームとチョコのツートンでそっくりじゃん」
「まあ、いいけどさ」
「越智は甘食で、桑原先生は卵サンドで…」
「って、それ本人がよく食べてるからじゃん」

どっと笑って、それから再びパン談義に戻る。

「塔矢先生はドイツパンって感じかな。良い粉使って重厚で」
「だったら塔矢はどうなんだよ」
「あいつかあ…」

皆がはたと考え込むと、すかさずヒカルが口を開いた。

「食パン」
「食パン…まあ、味も素っ気も無いって所ではアリか?」
「いや、でもあいつの頭の固さだったらフランスパンの方が合ってるんじゃないか」
「食パンって言ったら食パン。あいつパンなら食パンだよ」

尚もヒカルが言い張るので、興味を持った顔で皆が聞いて来る。

「なんだよ、そこまで主張する根拠はなんだよ」
「だって食パンて名前からして『食う』『パン』じゃんか」

だから食パンというのに皆笑った。

「食わないパンなんてあるかよ」
「そうだよ、そもそもパンは食いもんじゃねーか」
「だったら『毎日』『メシ』を食うみたいに『食う』パン」
「なんだそりゃ、益々訳がわからんわ」

と誰かが言ってまた笑いに移りそうになったけれど、何故かふっと全員が一様に黙り込んだ。

「ナニ?」

発言した本人であるヒカルは屈託無く、次のパンと標的を考えている。

「いや、あの…まさかとは思うんだけどさ」
「ん?」
「さっきの食パン云々っておまえ視点?」
「んあ?」
「だから、塔矢が食パンって、おまえから見て『食う』『パン』だってことかよ」
「んー? ああ、うん」

おれいっつもあいつのこと食ってるから。だから食パンと言われて皆俯いた。

「食パンって、美味いし、毎日食っても全然飽きないぜ?」

そして、なあ白川先生はうぐいすパンかな?と無邪気にヒカルが問いかけたけれど、誰も皆しばらくの間、言葉を発することが出来なかったのだった。


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「いや、だってまさかパンからあんな生々しい話題になるなんて」
和谷二段、談。


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