SS‐DIARY

2012年04月11日(水) (SS)Kiss me


初めてキスをした夜、いつまでたっても眠れなかった。

触れ合った時の唇の感触、温かさや心地良い湿り気や、普段有り得ない程近づいて漂って来た相手の肌の香りが思い出され、もじもじと腰が落着かない。

『好き』

掠れるように耳に囁かれた声は今でもはっきり思い出され、けれど思い出すと胸の奥底に火がついたように熱くなる。

「進藤…もう寝ただろうか」

きっとぼくとは違って、気持ちよくさっさと眠りに就いてしまっただろうと考えると憎らしい。

「ぼくは天地が返る程の一大事だったのに」

キミにとってはさほどのことでは無かっただろうと、そう思うのもまた悔しい。

「でも」

(震えていた)

肩に置かれていた彼の手は確かに微かに震えていたと思う。

『ごめん、させてっ』

思い詰めたように突然言ったあの時の顔はとても切羽詰まっていた。

「聞かなくてもぼくは別に良かったのに」

いつだって触れてくれて良かったのだと思いながら、けれど未だ唇の熱さに寝付けずにいる。

このままだと夜を明かしても気持ちが落ち着くことは無さそうだった。

(今日したばかりなのに、またもうしたいっていうのはおかしいだろうか)

自分はそんなに好色なのかと恥ずかしく思い、でもどうしても今すぐにでもまた彼とキスをしたいと思う。

「ぼくだって…好きだった」

ずっとずっと好きだったと、布団の中にくるまって苦しい想いを息と共に吐いたら、唐突にコンと窓が鳴った。

「…誰?」

こんな真夜中に、しかも庭から入って来るような者があればそれは悪人であるのに違い無いのに、ぼくは布団をはね除けるようにして飛び起きていた。

「…進藤?」

恐る恐る尋ねた声に窓の向こうから返事があった。

「うん」
「どうしたんだ、こんな時間に」

飛びつくように窓を開け、そこに立っている彼の姿を見て何故か泣きたいような気持ちになる。

「えーとさ、あのさ、おまえにしばき倒されるの解ってるけどさ」

来ないではいられなかったのだと進藤は言う。

「どうして?」
「うん、あのさ、もう一回キスさせて」
「そんなことのために来たのか?」

沸き上がる喜びを押し殺して責めるように言う。

「だってダメなんだ。どうしても今日のこと思い出して眠れない。おまえのこと欲しくて欲しくて一睡も出来ないんだって!」

まだキスでこんなじゃ先が思いやられるよなと苦笑しながら言う進藤は、でも昼間のように切羽詰まった顔をしている。

「ダメ?」

たぶん彼の瞳に映るぼくも同じ顔をしていることだろう。

「ダメなわけ無いだろう」

ぼくもキミに会いたかった。

キスがしたくてたまらなかったと、でも言葉で言うのは恥ずかしくて、ぼくは身を屈めると彼の唇を迎えるために、そっと両手を延ばしたのだった。


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