SS‐DIARY

2012年04月08日(日) (SS)我が侭姫の朝


朝、早く目が覚めて、一人シャワーを浴びに行く。

頭から浴びた熱い湯が、体を伝って足まで下りて、繋がっていた所に染みて顔を顰めた。

「…っ」

痛いというか、熱いというか、それほど擦れてしまっているのかと、その原因を考えて情けないような、悔しいような複雑な気持ちになる。

昨夜、夢中になって貪り合ったその代償がこれなのだから自業自得と言えなくも無いが、自分だけが後に残る苦痛に耐えなければならないのが腑に落ちない。


「起きろ」

ずぶ濡れのまま戻って、ベッドで眠る進藤を足で蹴る。

「んぁ? なんだよ、朝から元気だな、おまえ」

何? と聞かれて不機嫌に「拭け」とタオルを投げつける。

進藤は少し驚いたように目を見開いて、でも可笑しそうに笑って起きあがった。

「なんだ、朝からご機嫌ワルイんだ」

そんなに体に響いたかと尋ねられてむっつりと無言で返す。

「はいはいはいはい、おれが悪かった。ぜーんぶおれが悪かったから早く機嫌直せよ」

そしてタオルでぼくを拭いて、そのまま入れ替わるようにベッドにぼくを寝かせた。

「朝飯作るから、おまえはもう少しゆっくり寝てろよ」
「当たり前だ」
「うん、で、その当たり前ださんは卵はどうして欲しいんだ?」
「スクランブル」

言って、でもすぐに気が変わる。

「サニーサイドアップで」
「へいへい。了解」
「それからフルーツも欲しい」
「りんごでいいなら」
「コーヒーも飲みたい。インスタントじゃなくてちゃんと煎れたやつ」
「それも了解。他には?」
「パン、焼きたてのベーグルが食べたい」
「ベーグルかぁ、そりゃ買いに行かないとねーわ」

でも駅前の店なら7時から開いてるから売っているかなと、言いながらもう着替え始めている。

「その分遅くなるけど文句は言うなよ?」
「十分で帰って来い」

うへえと言いつつ、でも進藤は怒らない。

普段はここまでぼくの我が侭を黙って聞いていることは無く、途中で怒り出すことも多いのに、抱き合って眠った朝はとても優しい。

優しすぎて腹が立って仕方が無いくらいだ。

「駅前に行くなら、売店で新聞も買って来て」
「うちで取っているヤツじゃダメなんかよ」
「経済新聞が読みたい」
「わーかーりーまーしーたー」

そして更に追加されるのを恐れてか、そそくさと外に出て行った。

バタンと閉まるドアの音、静まりかえった部屋にぼくだけが一人残される。

(…温かい)

横たわるベッドは進藤の温もりがまだ残っていて気持ち良い。

「ごめん」

理不尽な怒りだとは自分でも解っている。でも進藤にそれをぶつけずには居られない。

だってやはりぼくの体が辛いのはキミのせいでもあるのだから、愛しているなら精々ぼくに尽くしてくれないとと、進藤にはとても聞かせられない可哀想な言葉を思いながら目を閉じる。

朝の光の中、まだ眠い目をこすりながら歩いているだろうキミ。

「…帰って来たらたくさんキスをしてあげるよ」

呟いたらやっと気が済んで、ぼくは心地良さに身を委ねると、ゆっくりと二度目の幸福な眠りに落ちて行ったのだった。



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