| 2012年04月02日(月) |
(SS)エイプリルアフター |
毎年、嘘がつけずにこの日が終わる。
別につかなくていいようなものだけれど、誰かさんに小さな嘘で騙され続けているので、たまには意趣返しをしたいと思うのだ。
けれど生来そういうセンスに恵まれ無かったようで、どんな嘘をつこうか考えているうちに四月一日が終わるのが常だった。
今年もそうで、昼間は散々進藤に騙されて悔しい思いをしたというのに結局何一つ返すことが出来なかった。
「…まあ、こんなこと嬉々としてやっているのは進藤くらいだし」
そもそも無理に嘘なんかつかなくてもいいわけだしと自分で自分を慰めながら布団を敷いて床に就こうとしてふと思いついた。
「そうだ、これならどうだ」
『緒方さんと一緒です』
送信して、でもやはりあまりにも見え透いた嘘だったと苦笑した。
進藤からの返事も無くて、呆れて寝てしまったのだろうと思った。
けれどそれから一時間後、ものすごい勢いで玄関のチャイムを鳴らされて飛び起きた。
誰だ今頃と警戒しながら行って見たらシルエットでもう進藤だということが解り、不審に思いながら鍵を開けたら転がるように入って来た。
「緒方センセーは?」 「え? いないけど」 「だっておまえメールに緒方センセーにやられそうって」 「そんなこと書いていない。それにあれはエイプリルフールの嘘だし」
言った瞬間、進藤が全身脱力したように座り込んだ。
「騙されたのか? まさか」
あんな嘘でここまで駆けつけて来たのかと思ったらおかしくなった。けれど進藤は笑うどころでは無く、大層な剣幕でぼくに言ったのだった。
「四月一日じゃねえ!」 「え?」 「あのメール来たの十二時過ぎだって!」
エイプリルフールなんかとっくに終わってるんだよと言われて、慌てて携帯を確認した。
「あ、本当だ」 「もう、信じられねえ、有り得ねえ」
もう二度と嘘なんかつくなと怒鳴られて、確かにぼくに嘘のセンスが無いことを身に染みて知った。
でもこんな夜中に駆けつけてくれる恋人の愛情の深さも解ったので、そんなに悪い嘘でも無かったかなと胸の中では思ったのだった。
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