親戚んちの赤ん坊を見せて貰いに行った時、上の子になる三才の女の子が持っていたぬいぐるみを見て、ふと何故か懐かしいような気持ちになった。
片腕だけを持たれ、後は床に引きずられているぬいぐるみは、タオル地で出来ていてとても抱き心地がよさそうだった。
うさぎだか、クマだか他のものだか、あまりに単純な形なので解らないけれど、色味も柔らかで、ああ、あんなのもしかしてガキの頃に持っていたっけかと考えて、いや結構最近だと思った。
そして唐突に思いだした。
「ああ!」
思わず声に出してしまったので、親や親戚に不審そうに見られてしまったけれど、おれはぬいぐるみで何を思いだしたのか解ったのだった。
(塔矢だ)
くったり。
今はソファの下に放り出してあるぬいぐるみは、力無くくずおれていて、した後の塔矢を思い出させた。
(あいつもあんなんになっちゃうんだよな)
抱いている時は張りがあり、しっかりとした手応えのある体なのに、終わった途端、魂が抜けたようにくったりとなる。
それがあのぬいぐるみととても似ていたのだ。
『大丈夫、ちょっと疲れただけだから』
構おうとすると五月蠅そうに言って、でも指一本も動かせない。動かしたくても動かせないのだと思うといつも愛しさに胸が痛くなる。
「…可愛いよなあ」
ぽつりと呟いて拾い上げたら、部屋の反対側から駆けてきた持ち主に嫌と言う程体当たりされた。
「返して、それまあちゃんの!」
コラと怒られながらも、おれの足を叩き続けている女の子にそっとぬいぐるみを返してやりながらおれはぼんやり思ってた。
(もっと、もっと大切にしよう)
くったりとしたあの姿はとてもたまらない程に可愛いけれど、でもそこまで無理をさせたら絶対いけない。
「…少し、可愛く無いくらいのが可愛いんだよな」
意地っ張りで頑固で意固地で健気。
でも、とても綺麗で抱き心地のいい『おれだけのもの』。
「ヒカル、あんたさっきから何やってんの。早くこっち来てご覧なさいよ」 「はいはい」
おれはくすっと小さく笑うと、親に手招きされて、本来の目的である小さな赤ん坊の顔を眺めにベビーベッドの側に行ったのだった。
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『ぐったり』ではなく、あくまで『くったり』で。
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