SS‐DIARY

2011年10月30日(日) (SS)今日だけは


「今日だけは絶対に死ねないって思うことがあるよね」

ある日本当に唐突に塔矢がおれにそう言った。

「なんだよ、そんな縁起悪いこと、よりにもよって飛行機に乗ってる時になんか言い出すなよ」
「ごめん。こういう時だから思いだしたって言うか…こういう時によく思うことだったから」

そう言ってくすりと笑う。

「…で、その『今日だけは絶対死ねない日』っておまえにとっては何時なんだよ。もしかして今日なん?」
「まさか違うよ」

9月20日と、塔矢はゆっくりと静かに言った。

「ぼくはずっと決めているんだ。キミが生まれたその日にだけはぼくは絶対何があっても死なない」

キミの誕生日を悲しい日になんかしないんだとそう決めていると言われて、迂闊にもじわりと目頭が熱くなった。

「そんなん…」
「バカにしてくれてもいいけど?」
「バカになんかしないけど、でもそれだったらおれだってこの日にだけは死にたくねえって日があるよ」
「いつ?」

そんなの、12月14日に決まってるだろと言ったら塔矢は大きく目を見開き、それから国際線の中だというのに大声で可笑しそうに笑ったのだった。


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