決して不器用なはずは無いのに、進藤は爪を切るのがあまり上手では無い。
切りすぎて深爪になってしまうこともあれば、余所見をして斜めになってしまっている時もある。
「貸せっ、怖くてとても見ていられない」
あまりにもいい加減に切っているので、我慢出来ずに爪切りを取り上げて代わりに切ってやったこともある。
「わー塔矢、優しいー」
おれ下手だしこれからずっと切って貰おうかなと甘えてくるのには「今回だけだ」とぴしゃりと断ってやったのだけれど。
(思うにあれは注意が他に向いてしまっているからいけないんだ)
テレビが映っていればそちら、窓の外で鳥が羽ばたけばそちら。どうしてそんなに落ち着きが無いのだろうかと思う。
(でも、テレビも何も点いていない時もいい加減に切っているな)
あれは一体何に気を取られていたんだろうとぼんやりと考えながら、飲み終わったカップを流しに持って行こうとした時、ちくりと足の裏に痛みを感じた。
「―っ」
裏返して見てみると、切った爪が刺さっている。
「進藤のだ…」
そういえば昨日来た時にここで足の爪を切っていたっけと思いだし、忌々しくそれを拾い上げる。
「まったく…どうしてこう下手なんだか」
終わった後彼なりに掃除もしていたようなのだけれど、どうやら取りこぼしがあったらしい。
「昨日も別に、テレビも何も点いていなかったじゃないか」
それどころか窓も閉まっていて気を引くような物は何も無かったはずなのに。
「…一体キミはいつも何にそんなに気を取られているんだ」
呟きながらゴミ箱に捨てた時、ふとじっと自分を見ていた彼の瞳を思いだした。
(おまえのことだよ)
空耳のように声が聞こえる。
(おれはいつもおまえに気を取られているんだって)
そんなことにも気がつかなかったのか、バカだなあと言われたような気がしてムッとする。
「それでも―」
キミだってもういい大人なんだから爪くらいちゃんと切れと、ゴミ箱の底に沈む彼の小さな欠片を見詰めながら、ぼくは怒っていいのか笑っていいのか解らない複雑な気持ちで、大きく溜息をついたのだった。
|