駅から家に帰るまでの道のりの、ちょうど真ん中ほどにぽつんと自動販売機がある。
飲み物はスーパーなどで買った方が安いので滅多に買うことは無いのだけれど、それでも辛抱が足りない進藤は、夏の暑い日など、誘惑に負けて買ってしまう。
「…もう少しで家なのに」 「いいじゃん。あんまり暑いの我慢してると熱中症になっちゃうんだぜ」
だったら炭酸では無く、スポーツドリンクを買えと言いたい所をぐっと我慢して黙って見守る。
それくらいで文句を言うのはいくらなんでも口うるさいと思うからだ。
「ひゃーっ、冷たい」
ガタンと音をたてて落ちて来た缶を進藤は取り出し口から取り出すと、頬に当てて目を細めた。
「ほら、気持ちいいだろ」
言いながらぼくの頬にも当てる。
「それは…そうだけど」
でもやっぱり無駄遣いだと思った時、いきなり自販機が喋った。
『ありがとうございました』 「どういたしまして」
反射的に振り返った進藤がにっこりと良い笑顔で言う。
「これ…前から喋ったっけ?」 「いや、一昨日くらいに新しいのに替って、そしたら喋るようになったんだ」
こんなもんでもお礼言われるとちょっと気分がいいよなと言われて、むっと見る。
「キミは…何にでも愛想がいいんだな」 「なんだよ、自販機にまで焼き餅やくなよ」 「妬いて無い。ただ節操が無いと思っただけだ」
そしてそれ以上突っ込まれるのが嫌なのでさっさと先に行ってしまったけれど、それからも時々進藤が自販機に礼を言うのをぼくは見た。
バカじゃないかと思いつつ、それでも機械にも礼を尽くす彼の優しさを好きだと思った。
(でも、それとこれとは別問題だ)
「いいか、忠告しておくけれど」
ある日、一人での帰り道、ぼくは自販機に立ち寄るとジュースを一本買って、それから機械に囁いた。
「進藤は誰にでも優しいんだ。君にだけ優しいわけでは無いから絶対に誤解しないように」
彼はぼくのものなんだからと、大人気なくぼくは機械に釘を刺した。
「もしいらん愛想を振りまくようならぼくにも考えがあるから」
そのせいなのかどうなのか。
件の自動販売機はそれ以来、人(機械)が変わったように、幾らジュースを買おうとも、ぴたりとお礼を言うことが無くなったのだった。
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jさんすみません。書いてみたら、焼き餅をやくのがアキラの方になってしまいました(^^;似た物カップルってことで!
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