| 2011年06月26日(日) |
(SS)マイノリティ |
日曜の午後、食べる物が無いことに気がついて進藤と二人で買い物に出た。
行ったのは駅の近くのスーパーで、そういえばと不足していた物をあれこれと買った。
「明日の朝は、パンにするメシにする?」 「パンにしようか、このところずっと朝はご飯だったし」
じゃあ、パンなら牛乳買って行こうぜ、そうだバターも切れていたんだと進藤が言うのに思わずくすりと笑ってしまった。
「何?」 「…まるで夫婦みたいな会話だなあと思って」
言ってから、あっと思って口を噤んだ。
確かにぼく達は一緒に暮らしていて、でも夫婦になることなんか永遠に無い。それなのにどうしてそんなことを言ってしまったんだろうと、針で突かれたような気分で居たら、進藤に指で額を弾かれた。
「なんでそこで黙るん?」
いいじゃん、おれら夫婦じゃんとさすがに周りに気を遣い小さい声で言ったけれど、ぼくの耳には、はっきり聞こえるように彼は言った。
「なんでそんな後ろめたいみたいな顔してんの。別に誰に認められなくても、人に夫婦って呼んで貰えなくてもいいじゃんか」
おれらは一緒に暮らしてる。そしてこれからも暮らして行く。
日々を共に過ごして行く伴侶が『夫婦』なら、間違いなくおれ達は夫婦なんだからと、言ってから少し照れたように笑った。
「あ、それともおれだけ? おまえは違った?」
おれなんか、頼りなくてとても亭主だとは思えない? と聞かれたので再びくすっと笑ってしまった。
「…確かにキミを『亭主』だとは思っていないけれどね」
でも、ぼくにとっても間違いなくキミは生涯の伴侶で、だからぼく達は夫婦だと思うと。
今度は言い終わっても口を噤むこと無く「好きだよ」と小さく付け足したら進藤は嬉しそうに笑った。
「…なら、いいんじゃん」 「そうだね、ごめん」
スーパーの中、買い物をしているのは、たくさんのごく普通の家族連れや夫婦で、ぼく達がそれに含まれることは無いけれど―。
(でも、それが一体なんなんだろう?)
進藤が居て、ぼくが居て、それで愛し合っているならば、周りは何も関係無いじゃないかと改めて思った。
「帰りに隣の薬局にも寄って行こうか」 「え? 何? 積極的」 「バカ! ティッシュがもうじき無くなりそうなんだ」 「えー? でもそれってそういうことでもあるんじゃねーの?」 「違うっ!」
ごく、ごく平凡な、でもなんという幸せ。
顔を見合わせ笑い合うと、ぼく達は再び日々に使う細々としたものを選ぶために、ゆっくりとスーパーの中を回り始めたのだった。
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何気無い日常の方にマイノリティが傷つくものが含まれていると思う。
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