SS‐DIARY

2011年06月15日(水) (SS)ホームページに載っていた


「キミ…生年月日は?」

必死に平静を装いながら、ぼくは目の前で退屈そうに雑誌を眺めている進藤に尋ねた。

「そんなん、おまえと同じ年だし」
「せ・い・ね・ん・が・っ・ぴと言ったんだ。月と日を聞いて無い」
「9月20日。そういえばおまえは?」
「ぼく?」

思いがけず聞き返されて声がうわずる。

「12月14日」
「冬生まれなんだ。ふうん…なんかイメージそのまんまな感じ」
「イメージって?」
「冬将軍って感じじゃん。あれ? それとも雪の女王だっけ」
「どっちでも無い」

ぼくは将軍でも泣ければ女王でも無いよと思わずつっけんどんに言い返したら。そうそうそういう所と笑い返されてしまった。

「キミは…夏生まれのイメージだったけど」

秋だったんだねと言ったら、おうよと何故か自慢そうに返された。

「おまえより三ヶ月お兄さんだもんね。少しは敬え」
「たった三ヶ月でそんなに威張られる筋合いは無いよ」

でもそうか、三ヶ月だけ進藤はぼくより年上になるんだと、それがなんだかこそばゆかった。

「ところで、何それ」
「え?」
「生年月日ってなんでいきなりそんなこと聞くん?」
「ああ、それは」

ドキリとしながら考えておいた答えを言う。

「この前行った研究会でそういう話になったから」
「おれの生年月日の?」
「いや、当たり年とかそういう意味合いの」

人生の先輩方が、新人の生まれ年の豊作とか不作とかを話されていて、それでぼくの生年月日を聞かれ、キミのも聞かれたのだけれど、そういえば月日を知らなかったと思ったからと。

あまり上手な言い訳では無かったけれど、幸い進藤は疑うことなく、機嫌よくぼくに笑いかけた。

「じゃあ言ってただろ? おれらの年は豊作だって」
「えっ?……ああ、うん…まあ」

しどろもどろ答えるのには気がつかない。

「おまえがいて、おれが居るんだもんな、すげえよな」

囲碁界にとっての僥倖だよなと、使い慣れない言葉まで使って喜んでいるのに、胸の奥がちくりと痛んだ。

(ごめんね、本当はそんな話は出なかったんだ)

嘘をついてごめんねと、でもそれでも有る意味、キミの生年月日を聞けたのはぼくにとっても僥倖だから許して欲しいと密かに思った。

だってずっと聞きたくて、でもどうしても聞くことが出来ずにいたことだったから。

「…9月20日」

なんでも無かったその日は、今日からぼくの特別な日になった。

キミが生まれた日。

これからずっと忘れずにいるんだと、そっと胸の中で甘い気持ちを噛みしめていたぼくは、目の前に居る彼が、実はその時自分と全く同じことを考えていたことをずっと後になってから知ったのだった。


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そんな苦労しなくても棋院のHPに載っていたのに…と後で二人軽く凹みます。


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