SS‐DIARY

2011年06月01日(水) (SS)名前を呼んで2


「進藤」

呼ぶ声にはいつも一筋の甘さが混じり込んでいる。

「キミ、今日は早いんだな」
「別にこのくらいフツーだろ」
「いつももっとギリギリに来るじゃないか」

今日くらい余裕を持って来た方がいいよと、なんでも無い会話に胸が膨らむのは、塔矢の言葉がおれを好きだと言っているから。

たぶん無自覚で、考えてやっていることでは無いんだろうけれど、こんなにも感情が声に出るものなのだとは、こいつに出会うまでは知らなかった。

ガンガンに怒鳴られるのもいつもだし、冷徹に論破されるのもいつものことだし、本当に憎らしいヤツだと思うのに、それでも嫌いになれないのは、その声にやはり『好き』が含まれているからだと思う。

「進藤」
「ん?」
「来週お父さんが帰って来るんだけど、キミに会いたいって言っていたよ」
「へえ、塔矢先生が」
「もし時間があるなら来て、一局お相手願えないかって」

もちろんぼくもキミが来てくれたなら嬉しい。お父さんだけに独占されてはたまらないからぼくとも打てよと笑う顔はとても可愛くて、天然でこれは卑怯だよなと思う。

「いいよ、行く。たぶん1日くらいは行けるから」
「そうか、良かった」
「それでもちろんおまえとも打つから」
「―ありがとう」

ぱあっと花のように嬉しそうに微笑む。

ああ、嘘がつけないヤツには勝てないなと心から思った。

「じゃあ、帰国の日にちがはっきりしたら教えてくれる?」
「うん、すぐに連絡するよ」


好きだよ。

キミが好きだよと、聞こえ無い声がこだまする。

おれもこんなふうに伝えることが出来るだろうかと思いながら、塔矢の好きに応えるように気持ちをこめて名前を呼んだ。

「塔矢」

塔矢は少し驚いたような顔で振り返るとおれを見詰め、それからゆっくりと、その白い頬を染めたのだった。


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続けるつもりは無かったのですが、何となく続いてしまった名前シリーズ。
これで終了。

ずっと照れ照れと呼び合っていればいいと思う。


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