街中で進藤を見つけた。
そこに居るとは知らなくて、でもあの特徴のある髪は見逃さない。
「進藤」
彼は非道く気が抜けた感じで、少し肩を丸めて足先1メートル先くらいを見詰めるようにして歩いて行く。
「進藤っ」
雑踏の中、行き交う人に邪魔されて中々近づけない。
逆に彼はあんなだらだらとした歩き方でも慣れているらしく、上手く人を避けて先に進んでしまう。
『だからおまえがトロいんだよ』
いつだったか笑って言われたことがある。
『運動神経悪く無いのに、どうしてそんなに人混み歩くのが苦手なんかな』
でもそういうのもおまえらしいと、バカにされたにも関わらず腹が立たなかったのは、そう言った彼の表情がとても優しかったからだった。
「進藤、待っ―」
幾ら呼んでも振り向かない彼にぼくの声はだんだん大きくなる。
「進藤っ!」
とうとう怒鳴るようにして叫んだら、彼では無く彼の周りの人がびっくりしたように振り返った。
(どうして気がつかないんだ)
聞こえていないはずは無いのに、それとも無視されているのだろうかと段々悲しくなって来て、思わずぎゅっと唇を噛む。
呼んでも呼んでも振り返って貰えない。見える程近くに居るのにどうしても距離が縮まらない。
それはぼくと彼の関係を暗示しているかのようでとても胸に痛かったのだ。
「―っ」
このまま離れてしまうのは嫌だと、人をかき分けるようにして強引に彼の近くに走り寄る。
「進藤、キミ、聞こえ無いのか!」
ぐいと腕を掴んで引っ張ると、驚いた顔で彼が振り返った。
「あ…何? 塔矢?」
そして次に彼がした行動でぼくは呆気に取られて脱力してしまった。
彼はぼくを見るなり、嬉しそうな顔をして、耳にしていたイヤホンを外したのだった。
「なんかの帰り? すげー偶然だなあ」
にこにことなんの屈託も無く話す彼にさっきまでの自分の焦燥を思い赤面する。
「何? なんか顔赤いけど、もしかしてどっか具合でも悪いん?」 「……悪いのは気分じゃなくて機嫌だっ」
どうしてこんな時に音楽なんか聴いているんだ。ぼくが何回呼んだと思っていると一気に怒鳴ってぺちりと叩いた。
「―――痛ぇ」 「奢れ」 「は?」 「なんでもいいから夕食を奢れ。ぼくは奢ってもらう資格がある」 「なんなんだよ−、おまえマジわけわかんねぇ」
ぶたれた頭をさすりながら、でも進藤はまんざらでもなくぼくの顔を眺めている。
「…そっか、何度も呼んでくれてたんだ」
それは悪かった、ごめんなと、そしてにっこりと極上の笑顔で笑ってから「奢るよ」とぼくの耳元に囁いたのだった。
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