| 2011年05月08日(日) |
(SS)覚悟のススメ |
猫と小鳥の動画を見た。
生まれた時から一緒に居るので、互いに食うか食われるかという仲だと解っていないのかもしれない。
特に鳥の方が何の警戒心も抱かずに猫に近付き、つついたりさえずったりしているのにひやひやとした。
ほんの少しあの口が噛めば一瞬で細い首は折れるんだろうに、ほんの少し猫がその気になってひっかけば爪で引き裂かれるんだろうに、鳥は全く無頓着で、だったらいっそ少し思い知らせてやればいいと思ってしまう。
「なあ、これ、鳥がバカなん? それとも猫がバカなん?」
パソコンの画面から顔を上げ、塔矢に聞いたら「なに?」という顔をされた。
「なんつーか、これって捕食する側と捕食される側なわけじゃん? なのにまるでそんなことなんか無いみたいに鳥は猫に近付くしさ、猫は猫で手ぇ出さないしで、両方バカ過ぎると思わないか」
どれどれと覗きに来たので最初から見せてやる。塔矢はじっと画面を見た後、そうだねと苦笑して小さく言った。
「別にどうでもいいんじゃないかなあ」 「なんで? 一歩間違ったら結構悲惨なことになるぜ?」
どっちにとっても悲劇だと口を尖らせるのに涼しく笑う。
「うーん、だってそもそもそういう育てられ方をしていないし、お互いに相手がどういう生き物なのか本質を解っていないし、それでいつも側に居たら友達だって思ってしまったって仕方無いだろう」
「でも、それでも猫は猫、鳥は鳥じゃん。いつ猫が本性出して鳥のこと『美味そう』って思っちゃうかもしれないのに」 「ああ」
気がついたように言って塔矢は笑った。
「なんだキミは結構優しいんだな」 「何が?」 「安心して側に来て、食われてしまったら鳥が可哀想だと思っているんだろう」 「…当たり前だろ。どう見ても鳥のがひ弱いし」 「でもその代わりに飛べる。その気になればずっと高い所にとまったまま、降りて来ないことだって出来るんだ」
もし万一猫がそういう雰囲気を出したら、いくら鳥だって飛んで逃げるさと塔矢は言った。
「それでもさぁ」 「それでも逃げなかったとしたら…気配を感じても甘んじて牙を受けたのだとしたら、それは合意ってことになるんじゃないかな」 「合意?」 「そう。猫は後で悲嘆にくれるかもしれないけれど、鳥の側には食べられても別に恨まない。後悔しないって意志があったのかもしれない」
だから心配しなくていいんだよと言われてぐっと言葉に詰まった。
「それ…もしかして例え話?」 「いや? でももしそうキミが思ったならそうかもしれないね」
でも少なくともぼくは食われて文句は無いし、それを後悔してもいない。案外そういうものだよとさらりと笑う。
「でもそれって…」 「まだ何か?」 「いや、なんでも無いデス、もういいデス」
敵わない。
そのきっぱりとした揺るぎ無い意志にはいつまで経っても敵わないなあと、おれはそれが悔しくて、それこそ拗ねた猫のようにちょいと塔矢を引っかけると、無理矢理抱きしめてみたのだった。
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そこらへんをちゃんと描いた「あらしのよるに」は名作だと思うんですよねえ。
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