SS‐DIARY

2011年05月03日(火) (SS)ひまわり男と月下美人


囲碁ファンとの交流会で、進藤はたくさんの若い女性に囲まれていた。

こういう時、取っつきにくいぼくにはほとんど声がかけられることは無く、放っておいて貰えるので有り難いが、彼がなかなか戻って来ないのには閉口する。

『だってさー、ファンです。応援してますって言ってくれてるのを邪険に振り払ってくるわけにも行かないじゃん』

前に同じようなことになった時、少々の皮肉をこめてキミはモテていいねと言ったら進藤はむっとしたような顔でぼくを見た。

『大体、おまえが悪いんじゃん。綺麗だけど怖い顔してるし近寄るなオーラを出してるから、その分おれの方に来ちゃうんだって』

半分は絶対おまえのファンだと言われて、それは違うなと思った。

進藤は子どもの頃と違って背も伸びて、随分見た目が良くなっている。恋人であるとの欲目を抜いても格好いいと思うし、顔立ちもいいとそう思う。その上碁でも成績が良く、初タイトルまで後少しという状況なのだから、放って置けという方がおかしいだろう。

『それでもさ、別におれ、嬉しいわけでもなんでもないし』

ぼくの不機嫌をうっすらちゃんと理解していて、まんざら弁解でも無くそう言っていたけれど、今この瞬間目の前でやに下がった顔で笑っているのを見ているとそれも少々疑問に思える。


「ただいま」

30分程して、ようやくぼくの元に戻って来た彼は、疲れた、やっと抜け出せたとしきりにぼやいて溜息をついた。

「打つ子はまだいいけどさ、みんなそんなに打たないらしいのに、どうしておれなんかと話がしたいんだろうな?」

「それはキミと親しくなって、付き合いたいと思っているからだろう」

付き合って、恋人になって何れはこの男を手に入れたい。そういう気持ちがあるからこそ綺麗に着飾って、最上の笑みで彼に笑いかけるんだろう。

「キミだって満更でも無さそうだったじゃないか」

「え? おれ??」

囲まれている間何も口に出来なかったと、通りがかったウエイターからカクテルを受け取っていた進藤はぼくの言葉に素でびっくりした顔をした。

「は? え? おれが? どうして???」

「なんだ気がついていなかったのか。キミ、でれでれと鼻の下を伸ばして、ものすごく緩んだ顔で笑っていたぞ」

「え? あっ! あー…」

言われて心当たりがあったのだろう、進藤はカクテルを口に運びながらにやっと笑った。

「あれね。うん、確かにおれ、笑ってたかもな」

「ほらみろ、今日は何人に携帯のアドレスを教えたんだ」

「教えて無い。誰にもそんなの教えて無いよ」

だってそんなの、ちょっとでもこっちも気があるみたいに思われるじゃんかと進藤はさらりと言ってぼくを見た。

「おれにはちゃんと好きな人がいる。だから誰とも遊びでも付き合うことは出来ませんって言ったらちゃんと解ってくれたよ」

「へえ?」

「おまえどう思っているか知らないけど、おれはこれで結構真面目で誠実な男なんですけど」

「まあ、そういうことにしてあげてもいいけれどね」

その割にいつまでたっても彼の周囲から女の子の姿は消えないなと、これは胸の中だけで苦く思う。

本当に、彼が不実だとは思わないけれど、好きで好きでたまらない相手に若く綺麗な女性達が群がって行くのは正直不安だし面白く無い。

「おまえさ」

知らず考えていたことが表に出てしまっていたのだろう、のぞき込む進藤に顰めた眉をつんと突かれて笑われた。

「さっきおれが笑っていたって言ったじゃん?」

女の子達に囲まれて、非常にだらしない、やに下がった顔で笑っていたと言ったよなとさっきぼくが言ったことを繰り返す。

「そこまでは言っていない。鼻の下が伸びていたと言っただけだ」

「いいよ、どうでも、もう。あれってどうしてだと思う?」

「どうしてって、言わせたいのか? 殴っていいならこの場で殴るぞ」

「なんで? おまえのこと考えてたのに」

「え?」

思いがけないことを言われてびっくり顔になったぼくを進藤はさも可笑しそうに見詰めている。

「この子達、それなりにレベル高いし可愛いんだろうなあって思ったんだけど、おまえの方が百万倍も一億倍もずっと綺麗で可愛いって、そう思ってたんだ」

そしてそんな美人でカワイイ恋人が自分のことでむっとしているなんて幸せ過ぎて死ぬかもしれないとそうも思っていたのだと言われて頬がじんわりと赤くなった。

「…そんなくだらないことを考えていたのか」

「うん。目の前の誰もまともに見たりしてないよ。だってほとんど上の空で早くおまえん所に戻りたいなーって思ってたから」

そして戻って来てみれば嫉妬にかられたおまえにこうしてねちねち苛めて貰える。

「そりゃ、顔だってだらしなくデレるって」

「ば――――――」

ぬけぬけと言われてさも嬉しそうに見られて、ぼくは本当に呆れてしまった。

「臆面もなくそういうことを言うのは感心しない」

「でも、そんなおれが好きなんだろ?」

あそこに居た女の子達、端から全員ぶち殺したいって思うくらい、おれのこと深く愛しちゃってるんだろうと言われてひっぱたこうかと思ったけれど止めた。

「…そうだね。そこまでは考え無かったけれど、後五分、でれでれと笑っているつもりなら殺してぼくだけのものにしてしまってもいいかなとは思ったよ」

「怖ーっ」

言いながら、でも進藤は笑ってる。

「おれ、いいよ。おまえなら」

「やらないよ。そんなことしたらもう打てない」

「ちゅー出来ないじゃないんだ」

はっきりとがっかりしたように言われてぼくも笑った。

「それはおまけみたいなものだから」

「ひでーっ!」

碁も体も顔も、このしょうもない性格も全てひっくるめて愛している。キスはとても重要だけど、彼とぼくとの関係を形作る行為の一つでしか有り得ない。

「携帯貸して」
「ん? はい」

躊躇無く渡してくれる素直さに飼い犬の忠実さをぼんやりと思った。

「…確かに誰ともアドレス交換して無いみたいだね」

「信用して無かったのかよ」

「信用してたよ。でも念のため」

キミのために見たんだと言ってやる。

「なんでおれのため」

「さっき言っただろう。ぼくは案外嫉妬深いからね。そんなぼくにキミがうっかり殺されないように見てやったんだ」

「ふうん」

ならいいよ、携帯見てもおれのこと殺してもおまえなら全部何もかもOKだからと、言いながら不用意にまたファンだという子に捕まった。

本当にこれは本人の同意も得られたことだし、殺してぼくだけのものにしてもいいのではないか?

彼の飲みかけのカクテルを取り上げて続きをそのまま飲みながら、女の子相手にだらしなく笑う、彼の顔をぼくはほろ苦い想いで眺めたのだった。


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和谷くんや伊角さん、冴木さんも結構モテます。アキラは女嫌いが定着してるし、恐れ多すぎて誰も近づけないんです。


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