SS‐DIARY

2011年04月18日(月) (SS)モテ期


誰でも人生に一度はモテ期というものがあるらしいけれど、おれにとっては正に今がそれらしい。

今年に入ってから結構立て続けに告白まがいなことをされ、それは春になっても止まらなかった。

「羨ましいなあ、進藤。どんな詐欺な手を使ったらそんなに告白されんだよ」

とは、ごく親しい友人達のお言葉で、でもおれ自身にとってはそれはあんまり有り難いと言える事態では無かったりした。

何しろ、おれは既に心から好きな相手がいる。だから当然告白に対してはお断りしなければならなくて、そうなれば当然悪人である。

それも一度や二度ならいいが、あまりにも続くと「あいつは何様のつもりだ」と同性からの反感も著しい。

そして一番困るのがその告白をされるタイミングが大抵はおれのその、心から好き…だけど打ち明けることも出来ないでいる相手の前でされる確率が大きいだからだ。

そう、つまり塔矢の前で。


今日、手合いが終わり、いつものように一階で待ち合わせていた時も同じようなことになった。

おれの方が先に終わり、手持ち無沙汰に塔矢を待っていると、待ち伏せしていたような女の子に思い詰めた顔で声をかけられた。

「あの…進藤五段」

うわ、来た。

申し訳無いけれど、続く言葉がもう容易に想像出来てしまったので、おれは咄嗟に心の中で身構えた。

「すみません。進藤五段には、好きな方がいらっしゃるんだって皆から聞いているんですけれど、それでもどうしても気持ちを伝えたくて」

その皆って誰だよと溜息をつきながら待ち構えていると、タイミング悪くエレベーターが降りて来た。

そして開いたドアの向こうにいたのはこれまたタイミング悪く塔矢一人で、目の前の光景を見た塔矢は一瞬で事態を把握したらしい。途端に顔がむっとしたものになった。

しかも更にタイミング悪く、女の子の方は真剣なあまり塔矢の存在に気がついていない。

「あの…私、進藤五段のことが好きなんです。好きな方がいらっしゃるっていうなら遊びでもいいんです。どうか付き合っていただけませんか?」

うわあ最悪。

「いや…あの…ホント悪いんだけど、おれそのつもり無いし、それにそもそも遊びでっていう感覚はわからないから」

付き合うなら本当に好きなヤツとしか付き合え無いからごめんなと、それでもなるべく言葉を選んで言ったつもりだったのに案の定相手は泣きだして、そのまま立ち去ってしまったのだった。

「…人非人」

ぼそっと言われてうへえと思う。

「追いかけなくていいのか? 彼女泣いていたぞ」

ゆっくりと歩み寄って来ながら塔矢が言う。

「好きでも無いのに、そんな気をもたせるようなことしてどうするんだよ」
「へえ、じゃあキミは好きな相手だったら残酷に振っても追いかけるんだ」
「なんだよそれ、そもそも好きな相手だったら振るわけ無いじゃん」

言い終わった時、ちょうど塔矢が目の前に来た。

じっと、怖い程じっと見つめられて、ああこれはまた説教一時間のクチかなと思った。

「キミは…」

言いかけてふと口を噤む。

「なんだよ言えばいいだろ。もう何回目だとか、それでも人としての感情を持ち合わせているのかとか、ぼくはいい迷惑だとかなんでも好きなこと言えばいいじゃん」

半ばやけくそのように言って塔矢を見据える。

「なんでも…か」

ふいにするっと塔矢の腕がおれの腕の下を通り過ぎた。そしてそのまま思いがけず、ぎゅうっと強く抱きしめられる。

「キミが好きだ」
「え?」
「ずっと、ずっと前からキミのことが好きだった」
「塔…」
「キミが告白されるのを見続けて来て、本当はずっと怖かった。いつかキミが誰かに『うん』と言うんじゃないかって」

そうしてから抱きついて来た時と同じくらい唐突に離れた。

「軽蔑してくれてもいいよ。嫌ってくれてもいい」

でもどうしても言わずにはいられなかったからと、そしてそのまま呆然とするおれの脇をすり抜けて、塔矢は出口に向かって歩いて行った。

「ちょ…おまえ、おれを置いて帰る気かよ」
「当たり前だ。今までのキミの動向を見て来て告白された時の断り方はよく知っている。それを自分に繰り返されて、そのまま平然と食事をしたり検討したりなんか出来るわけが無いだろう」

万一ぼくが出来たとして、キミの方が出来ないだろうと苦笑のように笑って踵を返す。

「ごめん、我が侭だって言うのはわかっているけれど、その気が無いなら本当にこのまま放っておいてくれないか」

少なくとも気持ちを伝えることが出来たのでぼく自身は満足だからと。そして更に「今後二度と迷惑をかけることは無いから」とまで付け加えた。

「ちょ…」

すたすたと、どうしてそんな迷い無く歩いて出て行ってしまえるのか。

それはおれ自身が招いたことでもあるのだろうけれど、その迷いの無さに腹が立った。

「って、ちょっと待ておい、こらっ!」

おれはもうとうにドアの外に出てしまっている塔矢に向かって大声で怒鳴ると、もちろん思い切り『その気がある』ので、猛然と追いかけるため走ったのだった。


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※進藤ヒカルのモテ期、実はこの先もずっとモテ期。そりゃそうだ、男っぷりは上がるは段位も上がるはで、モテ期終了になるわけが無い。アキラは万年モテ期ですが本人はヒカルしか見ていないのでそのことに気がついていません。そしてヒカルのモテ期に常にもやもやさせられるという。可哀想です。


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