進藤と待ち合わせる時、ぼくは必ず少し遅れて行くようにしていた。
「珍しいじゃん、いつも時計よりも正確なのに」
待ち合わせ場所で待ち遠しそうにぼくを待っている進藤を見るのが好きだったのと、人混みの中、進藤がぼくを見つけてぱっと嬉しそうな顔になるのを見るのもまた大好きだったからだ。
どうしてそんなにも嬉しそうな顔をするんだろう。 どうしてそんなにもぼくを見て幸せそうに笑うんだろうか。
その瞬間を見るのが大好きで、だからいつでも彼と会う時だけは遅刻常習犯だったのに、ある時からぼくはぴたりとそれを止めた。
止めて、代わりに彼よりも先に行って待つようになったのだった。
「…最近は早いじゃん」 「そういつまでも遅刻していたらキミに何て言われるかわからないからね」
嘯いて言いながら、でも本当の理由は待たせるよりも待つ方がより幸せだと気がついたからだ。
約束した時間よりずっと早く行って待っている。
いつ来るだろうか、遅れるだろうか? それともぴったりに現われるだろうかと進藤を探すのはとても楽しい。
今日はどんな服を着て来るだろう。どんな表情で現われるだろうかとそれを考えるのもまた楽しかった。
「塔矢!」
そして何より、ぼくを見つけて真っ直ぐに走って来る進藤を見るのは最高に幸せだった。
「今日は絶対おまえより早いと思ったのにな」 「10年早いよ」
世界中の何より他愛無く些細な。 でも命と同じくらい大切な瞬間。
その喜びを知ってしまったので、ぼくは自分勝手と知りながら、もう二度と彼を待たせることはせず、ひたすらに彼を待つようになったのだった。
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どっちにとっても、待つのも幸せ、待たされるのも幸せ。
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