正月はなんだかんだと忙しくて、家を訪ねて来られるお客様の対応や、逆にお世話になっている方々へのご挨拶回りに父の後をついて行ったりで毎日が慌ただしい。
研究会を兼ねた父のお弟子さんの集まりもあって、それにももちろん顔を出す。
母の買い物の手伝いをしたり、家のことも手伝って、それであっという間に三が日は過ぎたという感じだった。
(進藤はどうしているんだろう)
合間合間にふと思い出し、けれど深く考える暇も無く名を呼ばれる。
彼はきっとお家の方とのんびり過ごし、中学や小学校の時の友達と初詣にでも行っているのかもしれない。
本当はぼくも彼と行きたかった。
初詣で無くてもただ顔を見て話したかった。
他愛無い、本当になんでもない普通の会話がしたくてしたくてたまらない。
これが恋しいという気持ちなのだとしたら随分と切ない。
ぼくだけがそう思っているだろうということが余計に切なく感じさせるのかもしれないけれど、でも、ぼくが彼を好きなのだから仕方無い。
待ちに待ってやっと来た五日。
打ち初め式に向かう足取りは軽くて、人混みの中にその姿を見つけた時にはもっと嬉しくなった。
「塔矢」
おはようとにっこり笑い、そして寒いなと続けて言う。
「もうずっとゆっくり起きるのが癖になっちゃってたから今日早起きするのが辛かった」 「…早いという程早くは無いだろう」
手合いの時とそんなに変わらないと言うと口を尖らせた。
「それはそうなんだけどさあ」
そうしてからいきなり思い出したようにぼくに言った。
「なあ、おまえ今日の午後は何か予定あんの?」 「予定? 別に…」 「だったらどこかでメシでも食おうぜ」
いや、ただ茶を飲むだけでも、どこかのカフェで携帯用碁盤で打つのでもいいとせわしなく続ける。
「いいけど何で?」 「何でって、正月中おまえに会えなかったからに決まってるじゃん」
休みの間中、会いたくて、会って話したくて仕方無かったんだと言われて微笑んだ。
「ぼくもだ…」 「だったら約束な?」
絶対に絶対に緒方先生とか他の偉い先生方に連れて行かれちゃ嫌だからなと、念を押しながらも友人達に呼ばれて行ってしまう。
「約束だぞー」 「…うん」
幸せだ。
なんて幸せな年の始まりだろうと思いながら、ぼくは進藤と交わした会話を噛みしめて打ち初め式の始まりを待ったのだった。
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