朝起きた時から違和感があって、食事をしている時にそれがはっきりと痛いと感じた。
「ん? 何?どうしたん?」
目の前の鮭に集中したいたはずの進藤は、相変わらずぼくの些細な変化に気付くのが早い。
ほんの僅か箸を止めて躊躇していたのを見とがめて尋ねて来た。
「うん…別に何って言うわけじゃないんだけど、舌に口内炎が出来たみたいで、それが歯に触れて痛いんだ」 「おまえここの所忙しくて生活のリズムが崩れていたもんな」
疲れが出たんじゃないかと言いながら、進藤は席を立ってぼくの側に来た。
「見せてみ?」 「いや、いいよ」 「いいから見せてみなって」
こんな所で押し問答をしても始まらないので、お茶で口をすすいでから渋々開いて見せる。
「あー、先っちょの方に出来てる。結構デカイから痛いだろう」 「まあ、不快だけど仕方無いしね」
そういった物もあったような気もするが、基本的に口の中の出来物に薬の類はつけられない。
「うがいして、消毒するくらいしか出来ないかな」 「唾つけてみたら?」 「え?」 「ガキの頃、擦り傷くらいには唾つけとけって言われたじゃん」 「それは―」
それとこれは違うし、そもそも口の中なんだから唾も何も無いだろうと言いかけた顎を指で持ち上げられて、有無を言わさず口づけられた。
「…ん」
反射的に閉じてしまう目を薄く開いて見れば、すぐ間近に笑って見詰めている瞳がある。
(何を考えているんだ、何を!)
怒りたくても口を塞がれてしまっているので文句も言えない。
「ん…んっ」
もういいから離れろと押し退けようとするのを軽くいなして、進藤はゆっくりとぼくの舌を自分の舌で絡め取った。
触れられると、舌とはいえやはり痛くて軽く眉が寄ってしまう。すると今度は労るように優しく細かく動かして来る。
これはもう消毒とかそういう動きでは無いだろうと思いつつ、けれどはね除けることが出来ない。
情けないことにぼくの体は反応して抵抗することを放棄してしまったのだ。
ゆっくりと丹念に絡め、触れて来る舌が熱い。
胸のずっと奥底から甘い疼きが沸き上がって、四肢の力が抜けて行くのが解る。
「んっ」
目尻には涙が滲み、重ねられた唇からは溢れた唾液が伝い落ちた。
「…っ……ふっ」
ようやく離してもらえた時には頭の芯がぼんやりとして、椅子に座っているので無ければ、たぶん崩れてしまったことだろう。
「…治まった?」 「何…が?」 「舌の痛いの」
消毒して治まったかとにっこりと聞くその顔に邪気は無い。
「解らない…でも」 「でも?」 「キミのせいで別の所が苦しくなった」
だから責任を持ってどうにかしろと言ったら、進藤はおかしそうに笑ってちゅっとぼくの頬にキスをした。
「仰せの通りに」
女王サマ―と、思わず殴りかけた手を握り取って進藤は再びぼくに深く口づけた。
二度目のキスは更に甘い。
ぼくは完全に抵抗する気力を失って、食べかけの朝食もそのままに、彼に全てを投げ出して美味しく食べられることになったのだった。
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鮭食べようよ、鮭。固くなっちゃうよ。 せめてちゃんと朝飯食べ終わってから次のことしようよ。
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