「キミを殺す夢を見た」
夜中、叫び声を上げて飛び起きた塔矢は、おれが目を覚まして見詰めた時、胸を押さえたまま真っ青な顔で全身を細かく震わせていた。
「何? おれをなんだって?」 「キミを殺す夢を見た。感情が迸ってどうしても止められなくて」
気がついたら殺してしまっていたと。
「何…刺殺? 絞殺? それとも撲殺?」
尋ねても青ざめた顔で俯くばかりで答えない。
「いいよ、別に夢なんだし」 「でも! だからって!」
恐ろしかった。とても恐ろしかったと繰り返して震える。
「そんな夢、誰でも一度は見るもんだろ。本当にされたら困るけど別に夢だし」 「夢でも!」
ぼくはキミを殺したんだぞと、そして完全に俯いてそれからすすり泣いた。
「塔矢…」 「ぼくは…ぼくが恐ろしい」
泣く声の合間につぶやくような声が混ざる。
「ぼくはもしかしたら本当にキミを殺してしまうかもしれない」
怒りに囚われて、それを押さえきれなくなった時には本当にキミを殺すかもしれないと、その震えは痛々しい程で見ていておれは辛くなった。
「…夢の中のおまえはどうしておれを殺したん?」
尋ねても首を左右に振って答えない。
「おれが浮気でもした? それともおまえに言葉に出来ない程非道いことをした?」
微かに揺れたのは肯定だったのか否定だったのか。
「だったら…それは、殺されてもおれ、仕方無いんじゃねーの」 「嫌だ! もしキミがどんなに非道かったとしても、キミの命を絶つなんてぼくは絶対にしたくない」
そんなことをするくらいだったらぼくは自分の命を断つと、絞り出すような声音は紛れも無く塔矢の本心だと思った。
「おまえが死んだらその方が辛い」
ぽんと頭に手を置いて言う。
「裏切らないよ、絶対」 「…」 「もし裏切ったらその時は殺しても別に構わない」 「……」 「だけどおれもおまえには絶対そんなことで苦しんで欲しく無いから…」
だからおまえがそこまで思い詰めるようなことは絶対にしないと、心から思ってそう言った。
「ごめんな? 夢の中のおれが非道くって」
びくりと震えて、それから泣いた。
すすり泣いていたのが押さえきれなくなったかのように声を上げて塔矢は泣いた。
こんなにも激しく、こんなにも脆い。
こいつのこんな所を知っているのはおれだけだと思うと、切なく同時に愛しい。
大切にしなければと改めて思う。
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似たような話ばかりですみません。でもなんとなく。
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