「あれ? アキラ、首の所赤くなっているけど虫さされ?」
エレベーターに乗っていたら、後ろに立っていた芦原さんに何の疑いも無くそう聞かれた。
「えっ?…ええ。目立ちますか?」
咄嗟に手で隠すように覆いながら尋ねると芦原さんは「大丈夫」と笑った。
「心配しなくてもちょっと覗いているくらいだから解らないよ」
でもそんな所についていると色っぽい痕みたいで困るよねえと言われて顔が赤く染まった。
「そう…ですね」 「あはは。そんな赤くならなくても」
アキラは奥手だなあと言われてさらに顔が赤くなった。
手のひらの下、隠した痕がひりひりと痛む。
あれは何歳の時だっただろう。
何も知りませんという顔をして、でもぼくはもう全てを知っていた。
汚れたとは思わなかったけれど、綺麗だとも思ってはいなかった。
「―キミのせいだ」
ふと思い出して軽く睨む。
「はぁ? 何が?」
隣を歩いていた進藤は頓狂な声をあげてぼくを見た。
「何でも、とにかく全部みんなキミが悪い」
言い切るぼくに眉を寄せ、けれどすぐに笑顔になった。
「なんだかよくわかんないけど…うん」
全ておれが悪いんだなと、進藤は言ってぼくの首筋に顔を埋めた。
ちくりと痛むその痛みに、痺れるような甘さを感じながらも突き放す。
「こんな所でそんなことをするな」 「はいはい。解ってるって」
するりと撫でる首筋にもう赤い痕はたぶん無い。
痕をつけずに愛し合う小賢しさを身につけてしまったから。
彼も―そしてぼくも。
愛し合った赤い印は、互いの肌の見えない場所にみっしりと咲く。
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