SS‐DIARY

2010年11月25日(木) (SS)Slow snow

「何か一つに心を占められて他に何も入らなくなる。それはとても歪で怖いことだと思わないか?」

ぽつりと塔矢が話し出したのは、うとうとと、まどろみかけていた時だったので少し驚いて目を開いた。

「変わって行くのが当たり前なのに、その理を曲げて他者を入れない」

それは良いことでは無いのかもしれないよねと言う声は小さくてまるで溜息のようだった。

「…そうだな、すごく怖いよな」

しばらく黙った後、おれがぽつりと返したら塔矢は非道く意外そうにおれを見た。

「キミでもそんなふうに思うんだ」
「なんで? おまえの中のおれってどうなってんの」

苦笑いして答える。

「そりゃ怖いよ。怖いに決まってんじゃん」

一つのものしか受け入れられない。それだけでもう心の中は一杯で、本当は知るべき様々なものを全て拒絶して閉め出してしまうのだから。

「確かに相当歪だよな」

正しい形じゃないと言ったら塔矢は俯くように視線を落とした。

「そうだね、正しい形じゃ無い」

静かな、とても静かな時間にもっと話すべきことはあるのかもしれないけれど、おれ達はこんな、どうにもやるせないような話をしている。

「後悔していないと言ったら嘘になるのかな?」

躊躇うように言葉を紡ぐのは不安だからなのかもしれない。

「どうだろう。わかんねぇ。頭のイイおまえに解らないのにおれに解るわけ無いじゃんか」
「それでもキミはいつも迷いが無いから」
「そんなこと無い。いつも迷ってばっかりだ」
「そうか…そうなんだ」
「がっかりした?」
「いや…」

安心したと言って塔矢はおれの胸に顔を埋めた。

「ぼくだけが不安で迷っているのかと思っていたから、だからそうで無いと解って正直嬉しい」

キミもぼくと同じなんだと。

「当たり前だろ。怖いよ。いつだってなんだって―」

おまえに関することはたまらなく怖いと言ったら小さく笑われた。

「…嘘つきだな」

そしてそのまますうと息を吸うといきなり眠った。

まるで墜落するかのような唐突な眠りだった。

「おい、おまえ…置いてきぼりかよ」

言いだしておいて寝逃げするなんて卑怯だぞと揺り起こしてやりたい気持ちになったけれど実際には何もしなかった。

「うん、そうだよな。おれも…安心した」

おまえも同じだって解ってすごく安心したよと、抱きかかえるその頭を不器用に撫でてやりながら目を閉じた。


安らかな。

たまらなく安らかで孤独な夜。


初めて肌を重ねた日、おれ達はこうして眠ったのだった。


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