SS‐DIARY

2010年11月05日(金) (SS)親友

二人が怪しいんじゃないかっていう噂はかなり前からあって、でも誰も本当には進藤と塔矢がそういう関係だとは思っていなかったと思う。

そもそもガキの頃は仲が悪かったし、途中から急に話すようになって待ち合わせて打つようになったりもしたけれど、進藤がもっぱら一緒につるむのはおれ達だったし、塔矢は塔矢で孤高だった。

それでも少し前より表情出て来たかなとか、おれらの集まりにも顔を出すようになったなとは思っていた。

進藤という人懐こい友人が出来たお陰でそうなったんだとしたら、それは塔矢にとって良いことで、取っつきにくくて愛想がないとは言え、塔矢は塔矢で抜きん出て強い。その塔矢と付き合うことは進藤にとっても悪いことの筈が無い。

良いことじゃんかと思っていた。

でもある日、すっぱ抜かれるように、友人以上の行為をしているのを見つかって、実はやっぱりそうだったんだと知らされた時には驚いた。

『そうだよね、いつもべったりくっついていたものね』

こういう話題に女子は食いつきが非道くいい。

『塔矢なんか顔がアレだし、ずっと前からその気があるんじゃないかと思ってたよ』

男も男で口さがない。

もちろん上の方の人達にも二人の関係は大いに問題になったらしく、二人はそれぞれ呼び出されてこってりと話をされたらしい。

『―それで?』

だからそれがなんなんですかと、それが二人の全く同じ答えだったらしい。

『確かにおれら、付き合ってるけど、浮ついた気持ちで付き合っているわけじゃないし、何より一緒に居ることで碁を高め合うことが出来る』

『進藤と居ることで打つことに支障が出るならわかりますが、そうで無いのに問題だと言われる意味が分かりません』

実際この時二人の成績は抜群で、若手の中で一位二位を争っていた。

二人ともリーグ戦にも関わっていたし、確かにそれで何が悪いのだと言われれば反論出来る者はいなかった。

『でもね、こういうことは囲碁界全体のイメージダウンにも繋がることだし』

倫理的に許されることでは無いだろうと、それでも食い下がった役員には、二人は声を荒げることなく言ったと言う。

『だったらそんな倫理観に従うつもりはありません』
『もし本当に囲碁界のイメージダウンになるようなことになったら棋士を辞めます』

そこまでの言い切りに、今度こそ本当に誰も何も言えなかったようで、取りあえず二人の関係はあまりおおっぴらにしないことということで保留という形で治まった。

『度胸あんなあ』
『ホモが一緒だなんて恥ずかしい』

棋院内ではあからさまに陰口を叩く者もいたし、露骨に避けるヤツも居たけれど、進藤も塔矢も何処吹く風と言った調子であまりに何も変わらないので、終いに誰も何も言わなくなってしまった。



「そういえばさあ…あん時、おまえだけ何も言わなかったよな」

なんで? と数年後にふと思い出したように進藤に聞かれた。

「なんでって…別に」
「あん時、おれ、冴木さんにさえしばらく避けられてたんだけど、和谷は全然いつもと変わらなかったじゃんか」
「うーん、変わらなかったって言うか、変れなかったって言うか」

だってあそこまできっぱりと言い切られたら、はいそうですかとしか言えないじゃんと言ったら進藤は笑った。

「そうか」

それでもあの時はそれがとても嬉しかったと、深く何かを考えてしたわけでも無い行為が思いがけず進藤の支えになっていたと知ってこそばゆくなった。

「で、今は?」
「何が?」
「今はもう少し落ち着いて考えられるだろ。ダチがホモってどうなんだ」
「ホモも何も―」

おれは笑った。

「おまえと塔矢が一緒に居ないのなんか、想像もつかない」

だから何にも思わないよと、そう言ったおれに進藤はまた再び「そうか」と言って笑った。

それは本当に心から嬉しそうな笑みだった。

そしておれはそんな進藤がホモでも何でも関係無く、やっぱり好きだなと思うのだった。


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完全版のほった先生の和谷くん語りが今でもずっと心に残っています。
あれ読んだ時マジ泣いた。

本当に、一生の友達なんだと思う。友達ってそういうものだよね。


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