| 2010年10月07日(木) |
(SS)16才には重すぎる |
まだ付き合い始めて間も無い頃、塔矢が仕事で長崎に行った。
一泊して翌日帰って来ると言うので、どこかで待ち合わせてメシでも食えないかなとメールをしたらすぐに返事が来た。
『いいよ、半端な時間だし昼をどうしようかと思っていたんだ』
キミと一緒なら嬉しいなと、こちらの方が余程嬉しくなってしまうような、そんな言葉付きのOKに舞い上がる。
『おれ、ちょうど八重洲センターに用があって行くから、東京駅で待ち合わせよう』 『いいよ。待ち合わせる場所と時間はどうしようか?』 『待ち合わせは八重洲口改札にして、時間は…おまえ羽田に着くの何時?』
11時半着の飛行機だと言われてネットで検索する。
『羽田から東京駅まで40分くらいかかるみたいだから、じゃあ12時少し 過ぎに待ち合わせよう。おれ、早めに行って待ってるから着いたら連絡して』 『わかった、もし道路が渋滞して遅れたら許してくれ』
思いがけない言葉に一瞬思考が停止する。
『おまえ…羽田から何で来るん?』 『タクシー』
当たり前だと言わんばかりの言い切りのメールにしばし沈黙する。
『……悪い、やっぱ時間がわからないから、とにかく着いたら連絡して』 『わかった』
楽しみにしていると更に嬉しい言葉のダメ押しに、『おれも』とハートマークで返信してから俯いた。
『…このブルジョアがっ!』
電車以外の交通手段を考えもしなかった。自分と塔矢の「育ちの違い」を今更ながら思い知り、おれは深く落ち込んだのだった。
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