イッた後は消耗が激しく、しばらく体が動かない。
冬なら暖房、夏なら冷房が効いた室内で、シーツが汗を吸い取るにまかせてたゆたうように目を閉じる。
音は何も聞こえなくて半分眠ったようになる頃、こちらはじっとしていられない性質の進藤がぼくの傍らに座る。
きしっとベッドが軋む音をたて、体が少し彼の方に傾く。その傾いた体を彼はゆっくりと濡れたタオルで拭いて行くのだった。
「ごめんな、無理させたな」
ぽつりと呟くように言いながら、進藤はぼくの顔から首筋、肩から胸へとゆっくりと体を清めて行く。
「おまえ、キツいって解ってんのに、どうしても途中で止められなくなっちゃうんだよな」
ダメだよな、おれってと自嘲気味の言葉に何か返してやりたくてもまだ喉から声が出ない。
「大丈夫? 冷たくない?」
今は夏なのでひんやりと冷やしたタオルで拭いている彼は、温度も気になって仕方無いらしい。
「…平気」
大丈夫だよとなんとか声を出して言ってやると、見る間にその顔にほっとしたような表情が浮かんだ。
「良かった、生きてた。あんまり静かだからおまえ死んじゃったんじゃないかって少し怖かったんだ」 「死なないよ…これくらい」
この程度で死んでいたら一体ぼくは何回死ぬことになるのだろうか。
「…冷たくて気持ちいい」
ありがとうと、ぼくの言葉にタオルが止まり、それから後は更により一層丁寧に進藤はぼくを拭いていったのだった。
「この前、和谷達と遊びに行ったじゃん?」
独り言のように進藤が言う。
「あ、返事しなくていいからな。おれが勝手に喋ってるだけだから。それで、そん時に彼女連れのヤツも何人かいてさ」
みんなすごく嬉しそうで馬鹿みたいに張り切って面倒みたりしていてさと進藤が続ける。
「…それで?」 「和谷もおれも一人じゃん?だからなんとなく二人で彼女連れのヤツらのこと眺めていてさ」
それで言い合ったのだと言う。
『だらしない、あいつらあれじゃまるで奴隷じゃん?』
「プライド無いのかよって、和谷は笑っていたんだけど」
でもと進藤は言った。
「おれは…本当はちょっと羨ましかった」
好きな相手をおおっぴらに好きなだけ大切にすることが出来る。それが少し羨ましかったのだと。
「…だから、拭いてくれているのか?」
満たされなかった想いの、これは穴埋めなのだろうかと思う。
「いや、違うよ。これはただ、おれがそうしたいからしてるだけ」
もし本当に外でも思い切り構っていいんだったらこんなものでは済まないと、言う彼にぼくは、それは勘弁して欲しいと呟いた。
「だよな。おまえ、そういうの嫌いだもんな」
でも、一度くらい思い切りお前のこと、人前でもなんでも気にせずに大切に扱ってみたいと言われて微笑んだ。
「――ご免だ」 「つれねーな」 「もう充分に大切に扱って貰っているのに、これ以上大切にされたら居心地が悪い」
でも、どうしてももっと構いたいと言うなら、よく冷えた水が飲みたいとぽつりと注文をつけたら、進藤は嬉しそうに笑ってベッドから下りると、水を取りに出て行った。
ひたひたと去って行く足音は、それだけでぼくに安らぎと幸福を感じさせる。
(本当に、もうこんなに大切にされているのに)
これ以上なんていらないと。逆にどうしたら自分が彼に与えられたものと同じだけ返すことが出来るだろうかと考えているうちに段々意識が遠くなって、ぼくは進藤が戻る前に一人、眠ってしまったのだった。
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