| 2010年07月23日(金) |
(SS)ふみの日だから |
手合いが終わり、和谷達と喋っていたら、帰りがけの塔矢がいきなり近寄って来て、おれの手に何やら握らせてそのまま去って行った。
「ちょっ…おまえ、何これ」
驚いて呼び止めるとエレベーターの昇降ボタンを押しながらくるりと振り返る。
「何って今日はふみの日だから」
そしてそのまま開いたドアに吸い込まれるようにして去って行ってしまった。
「ちょっ、待てってば」
慌てて後を追いかけて、階段を駆け下りて一階で捕まえる。
「なんだよ、今の謎かけ!」 「なんだって、だからちゃんと言ったじゃないか、今日は七月二十三日で 『ふみの日』だから、たまにはメールなどでは無く、手紙にしようと思っただけだと言われて改めて握ったままの手を開く。
しわくちゃになってしまった紙には『キミが好きだ』とひとこと書かれていた。
「なんだよ! これっ!」 「なんだって…そんなこともわからないのか?」
呆れたように言われてにっこりと笑われる。
「わからないなら教えられないな」 「だっておまえ、メールでもこんな…」 「わかったらキミもメールでは無く、ちゃんと同じように『ふみ』で返事をくれ」
楽しみに待っているよと背中を向けられ立ち尽くす。
このやろう。
このやろう。
このやろうっ!
普段はくそ意地悪いくらいに素っ気無いくせにこんな時だけこういうことをする。
挑戦とも受け取れる告白に、おれは速攻で荷物を取りに戻ると、それから歩く道々、あいつが絶対「負けました」と言うような完璧な言葉を考え始めたのだった。
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