おくるみにくるまれた赤ん坊をぼくはそっと抱き上げた。
傍らには母が居て、ぎこちないぼくの手つきを笑いながらそっと正し、それから赤ん坊の顔をのぞき込んで「進藤さんにそっくりねえ」としみじみと言った。
「ねえあなた、あなたもそう思いません?」
母の隣には父も居て、やはり同じように赤ん坊の顔をのぞき込むと、表情は変えず、でも温かい声で「いや、でも目元はアキラに似ている」と短く言った。
「アキラの小さな頃にそっくりだ」 「いやだ、あなたったら本当に親馬鹿で孫馬鹿なんだから」
苦笑するように言う母にぼくのすぐ後ろから声がした。
「いや、本当に塔矢に似てます、こいつ」
おれに似るより絶対に塔矢に似た方が良かったから嬉しいですよとこぼれるように笑っているのは進藤で、彼はぼくの頬に頬をすり寄せるようにしてから「お疲れ様」とひとこと言った。
「すげえ可愛い、すげえ嬉しい」
こんなに嬉しくて幸せなのって生まれて初めてかもと言われて、こそばゆい気持ちになる。
「この子…ぼくはキミに似ていると思う。鼻筋とか顔の輪郭とか」
きかなそうな、性格の強そうな所がキミを彷彿とさせると言ったら拗ねたように口を尖らせられてしまった。
「おれとおまえの子どもなんだよな、こいつ」
ふにゃふにゃと柔らかく頼りない存在。
けれど腕の中で確かにしっかりと温かく、見ているだけで胸の奥に幸せの灯りが灯る。
「進藤さんのご両親はなんておっしゃるかしら」
少し遅れると連絡のあった彼の両親も間も無くきっとここに来る。
来て赤ん坊を見詰めるだろう。
『ヒカルに似ているわ、ねえ?』
彼のお母さんはそう言うだろうか?
『いや、塔矢くんに似ていると思うがね』
彼のお父さんはぼくの父とは逆なことを言いそうな気がする。
「…なあ、おれにも抱かせて」
ふいに進藤がそう言った。
「おれの子だもん、おれも抱きたい」 「いいよ」
落とさないでと言うのに苦笑しつつ彼はぼくの腕から赤ん坊を受け取って、それから大切そうにその腕に抱いた。
「可愛いなあ…本当」
可愛くて可愛くて頭から食ってしまいたくなるくらいだと、心から嬉しそうに笑って赤ん坊の頬をぷにっと指で突いた。
「おまえに似てるよ、やっぱり」
おまえに似てすげえ美人になると。俯いて微笑んで彼が言った所で目が覚めた。
「赤ん坊―」
起きてすぐ腕の中を見て、それからああと脱力する。
(そうだ。そんなわけ無い)
ぼくと彼が愛し合い、結ばれても子どもが生まれることだけは決して無い。
そんなことわかりきっていたはずなのにどうしてこんな夢を見たのだろうかと痛む胸を押さえながら思った。
「こんなにリアルに感触を覚えているのに…」
そっとベッドから起きあがって、夢の中でしていたように幻の赤ん坊をそっと腕に抱く。
温かくて柔らかくて彼とぼくの両方に似ていた可愛い子ども。
(あれがもし現実だったら…)
望んでも望んでも叶えられないこともある。それがたまらなく切なくて痛い。
「…とうした?」
ぼくの気配で目を覚ましたらしい、進藤が起きて来てぼくの隣にそっと立った。
「ごめん、起こしてしまったね」 「いや、それより、それ何やってんの?」
まだそのままに『赤ん坊』を抱いていたぼくを見て進藤が不思議そうにそう尋ねる。
「子どもを抱いてる」 「子ども?」 「…うん。キミとぼくの間に生まれた赤ん坊を抱いているんだ」
気が触れたと思われても仕方のないぼくの物言いに、けれど進藤はごく自然に「そうか」と返した。
「どっちに似てた?」 「ぼくはキミに似ていると思ったけれど、キミはぼくに似ていると言っていた」 「そうか。じゃあきっとおまえ似だな」
そうしてから夢の中でそうしたようにぼくの頬に頬をすり寄せて、それからそっと耳元に囁いた。
「…おれも抱いてもいい?」 「いいよ」
形の無い、姿も見えない、夢の中だけに居たぼく達の子ども。
でも進藤はそれを夢の中でしたのと同じように大事そうに受け取ると、のぞき込むように腕の中を見て「やっぱりお前にそっくりだ」と満面の笑みでぼくに微笑んだのだった。
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痛かろうがなんだろうがそれがどうしたという気持ちです。
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