SS‐DIARY

2009年10月14日(水) (SS)髪結いの亭主


当たり前だけれど、おれと塔矢の収入は違う。

悔しいけれど塔矢の方が少し良くて、でも生活費その他はきっちり半分ずつ出し合っている。

サラリーマンのように毎月決まった収入があるわけでは無いから、余裕のある月もあれば苦しい月もある。

今月はたまたまその「苦しい月」というヤツで、通帳の残高を見ながらついぽつりとこぼしてしまった。


「今月、ちょっと厳しいなあ…」
「どうせまた無計画に買い物をしたんだろう」

聞きとがめた塔矢の言葉はあっさりと冷たい。

「そうやって考え無しに使うから月末に困ることになるんだ」
「だって仕方無いじゃん。今月は結婚式とか飲み会とかすげえ多かったんだから」
「それに備えて貯めておかないからそういうことになるんだろう」

囲碁に関しては先の先まで読めるくせにどうしてお金のことになるとそれが出来ないんだろうかと心底呆れたように言われてしまった。

「…そこまで言う」
「言うよ。だってぼくはそんなどんぶり勘定の相手と生涯添い遂げる予定なんだから」

もう少ししっかりして貰わなければ困ると言われて、怒りたいけど怒れなかった。

「それで、そこまで苦しいキミは例のお金も無いのかな」

さらりと何気ない口調だったけれど、声の響きにはどこか窺うようなものがある。

「無いわけ無いじゃん! それを真っ先に抜かしたから今金に困ってんだよ!」

例のお金―塔矢と2人で暮らし始めた時に通帳を作って貯め始めた貯金。

いつか賃貸では無く、マンションを買って2人で住もうと、そして一生2人で暮らそうと、それはそのための資金だった。

こつこつと貯め始めて一体もう何年になるのか。

「飲み会に行けなくても不義理をしても、そっちをおれは優先するから」

どんなに貧乏になっても絶対にあの金を出さないなんてことは無いと言い切ったら塔矢は初めて笑った。

「そうか―」

だったら褒めてあげなければねと言って塔矢はおれの頭に手を置いた。

そしてまるで飼い犬にするかのようにくしゃりと髪を掴んだのだった。


「…褒めてんの? これ?」
「褒めているとも」

最上級に褒めているよと、ぼさぼさになるまでおれの髪を撫でるという名目で弄ぶと、そっとおれの体を抱いて、それから塔矢は耳元に「キミのパトロンになってあげてもいいよ」と赤面するようなことを囁いたのだった。



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1日五百円しかくれないパトロンです。


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