薄い水色の地に白い花びらが散っているシャツを見つけて、思わず値札も見ないで買ってしまった。
「ご自宅用ですか? 贈り物ですか?」
そう聞かれて、少し考えて「贈り物です」と答えた。
誕生日でも何の記念日でもなんでもない、ただごく普通の日。
だからシャツを渡したら塔矢はすごく驚いた顔をしておれを見た。
「どうして?」 「んー、なんとなく」
最近暑くなって来たから、たまにはこういうのもいいんじゃないかと思ってと、広げて体に当ててやりながら言うと、さらさらしたシルクの生地が触り心地がいいと塔矢は笑った。
「どうせなら、自分のものも買ってくれば良かったのに」 「いや、他に何が売ってたのかなんて見てないし」
ただ通りを歩いていて、ぱっとこれが目についた。
この涼やかな色はきっと塔矢の肌に似合うと、それだけしか考え無かった。
「…手合いに着て行くにはくだけ過ぎているから、ちょっと出かける時にでも着させて貰うね」 「いいよ、別に家で普段に着ればいいじゃん」 「でも、高かっただろう?」
勿体無いよと言うのに即座に返す。
「いいって! 単純におれの側でおまえに着て欲しかっただけだから」
せがんで、ねだってその場で無理矢理着て貰ったシャツは思った通り塔矢によく似合っていて、心の底から満足という気持ちになった。
「良かった! 買って来て」
淡い水色は涼しい空気を纏っているようだ。
白い花びらはちらほらと水面に落ちる季節外れの桜のようにも見える。
「…綺麗だね」
改めてシャツを見下ろして塔矢が言う。
「…やっぱりキミにも何か夏のシャツを買ってあげるよ」 「いいよ、別に」 「いや、絶対に買わせて貰う」
そして買ったそのシャツと、このキミに買って貰ったシャツを着て二人でどこかに遊びに行こうと誘われて、おれは迷わず「海」と答えた。
「海か…いいね」
目を細める塔矢の後ろには寄せて返す波が見える。
裾を風にめくられたこのシャツは、きっともっと綺麗だろう。
(いや、シャツじゃなくて塔矢が)
裸足で浜を歩いてもいい、1日中ぼんやりと水平線を眺めてもいい。
何もせず、ただ二人で手を繋いでパラソルの下で過ごしてもいい。
だったらやっぱりおれにも休暇に似合う夏色のシャツが必要だから、ここは変な意地など張らず素直に買って貰おうと「買いに行こうか」と誘ったら、塔矢は少し驚いた顔をして、でも即座に「いいよ」と夏の日差しよりも明るい笑顔でおれに笑ってくれたのだった。
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若先生チョイス
1.ひまわり柄 2.くじらorイルカ柄 3.青空に入道雲柄 4.スイカ柄
「キミに似合うと思うから」と言われてしまっては着ないわけにはいきません。
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