| 2009年07月26日(日) |
(SS)愛するということ |
ものすごく暗い夜をぼくは進藤と歩いていた。
もうずっと長い間お互い一言も喋らずに、けれど離れることも出来ずに同じ速度で歩いていた。
「なあ」
彼が口を開いたのは、何時間たったかわからない頃で、ぼくは一瞬躊躇して返事をした。
「何?」 「手ぇ繋がねえ?」
この状況で?こんな気持ちでそんなこと出来るはずが無いと突っぱねようとして、でも出来なかった。
無言で彼の手に触れると温かい指がぼくの指に絡められた。
「…何か言うことは無いのか」
尋ねるのに無言でただ握り返す。
「ぼくに何か言うことがあるだろう」
繰り返し尋ねるとふいにぼくの方を振り返って、ぽつりと彼は「ごめん」と言った。
「ごめん、おれが悪かった」
ぼくは返事をしなかった。
「ごめん、もし嫌だったら手ぇ離してくれて構わないから」
卑怯だなとそう思う。
「ぼくは離さない。キミが離せ」 「嫌だ、おれは離したく無いから」 「それでも離すならキミから離せ」
そんなやり取りを一体どれだけ繰り返したか。
争うのにも疲れて黙り込んでいたぼくに、進藤がまたぽつりと言った。
「愛してる」
おまえのことが死ぬ程好きと。
「ぼくは―」
嫌いだ。
嘘つきで狡くて卑怯なキミなんか大嫌いだと思いながら、それでも振り払うことなんか出来ず、彼の手を強く握り返すと、泣きながらまたひたすらに真っ暗な道を歩き続けたのだった。
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