| 2009年07月04日(土) |
(SS)見てはいけないものだった。 |
見るつもりは無かった。
昼を食べに外に出て、戻って来る途中、公園に居る進藤と塔矢を見つけた。
進藤は落ちていたボールを蹴ってサッカーよろしく遊んでいて、塔矢はそれを呆れたように見詰めている。
(ガキかよ、あいつ)
楽しげにボールを蹴り、塔矢のすぐ側に転がしては蹴れと言っているのが遠目にも見えて思わずおれは笑ってしまった。
まだ午後も手合いがあるのにこんな所で汗をかいてどうするのだと思う。
塔矢は仕方無く軽く蹴り返してやっていて、でもすぐにまた進藤がボールを蹴って寄越して来るので困っていた。
『進藤、いい加減にしろ』
声は聞こえ無いけれど、そんなようなことを言っているらしいのが雰囲気でわかる。
『やだよ』
これもまた口の動きでわかった。
(バっカだなあ、あいつ)
そのうち塔矢が切れるぞと思っていると、ふいに進藤がボールから足を外して塔矢を抱いた。―抱いたように見えた。
一瞬のこと。
すぐに二人は離れたけれど、でも確かに進藤は塔矢を抱きしめてキスをしなかったか?
そしてそのキスに塔矢は困った子どもを見るような眼差しで見詰め返しながら、でも嬉しそうに笑わなかったか?
見るつもりなんてこれっぽっちも無かった。
そんなつもりでここを歩いて来たわけでは無かった。
なのに見てしまった。
たぶん見てはいけなかった光景。
手足が震えて、動悸がして、どうしたらいいのかわからなくなって、でも気がついたら二人とも公園からいなくなってた。
「錯覚…なんかじゃ無かったよな」
後にはぽつりと取り残されたボール。
あのボールを蹴りながら無邪気に遊んでいた進藤は塔矢にキスをした。間違いなくしたのだとぼんやりとおれは思ったのだった。
|