| 2007年07月10日(火) |
「誘惑5題 44444 RIOさんキリリク(5)」 |
もう二度と進藤に会わないと決めた日、彼はぼくが口を開く前にぼくを海へ誘った。
「たまにはいいじゃん?健康的なデートってのも」
いつも人目を避けて隠れるようにホテルで抱き合っている。そんな逢瀬よりは確かにとても健康的だけれど、肝心の海について見たらそこは砂浜では無くて切り立った崖だった。
「確かに見事な眺めだけど…本当にこんな所に来たかったのか?」
彼のイメージは砂浜をかけまわる元気の良い子犬で、だからこんな迫力のある景色を望んだりするとは思わなかった。
「塔矢」
すごい眺めだなと遙か下に寄せる波を眺めていたら進藤がふいに真面目な声で言った。
「なに?」 「死のうか」 「え?」
ここでおれと死のうかと言われて耳を疑った。
「それは…」 「ここ、見た目より底が深くて潮も速いから一度沈むともう二度と上がって来ることは無いんだってさ」
だから心中が多いんだよと言われて初めてあちこちにある飛び降りを静止する看板に気がついた。
「おれ達、たぶん今のままだと一生隠れて付き合わなくちゃいけない。そういうのっておれはいいけどおまえはたぶん辛いよな」
でもおまえを離してしまえるほど、おれも心広く無いからと、言われて波の音が急に大きく耳に響いた。
「キミは…」
それでいいのかと尋ねかけてその目を見て言葉を飲み込んだ。本気で言っているのだとわかったからだ。
「ぼくは…いや……………いいよそれでも」
別れようと決めて来たくせに、いざとなったらそんなことは出来ないと気がついた。 生きて別れるくらいなら、死んで一緒に居る方がいい。 それくらい自分は進藤を愛しているのだと、こんな瀬戸際になって初めてやっと気がついた。
「いいよ、ごめん」
キミをここまで追いつめた、ぼくは心の弱い人間だったと、覚悟を決めて顔を上げたら抱きしめられた。
「…っバカっ、おれがおまえのこと殺せるわけなんか無いじゃん」
試したんだよごめんと、言って声も無く背中で泣かれ、ぼくは呆気にとられた後、切なさに飲み込まれるようにして、しゃくりあげながら泣いたのだった。
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44444番を踏んでくださったRIOさんキリリク「誘惑」の5つ目。
ダークな話ですが、これが一番感想を頂きました。
実際はヒカルはどんなことがあっても死を選ぶ人では無いと思います。ましてや愛する相手を死なせるようなことは絶対に出来ない人だと思います。 佐為のことがあるので余計にそうだと思うんですよね。
ただ、若さ故の刹那というものを書いてみたくてこの話になりました。 切な系百題の「毒薬」という話はこの話の対になります。よろしければそちらも読んでみてください。
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