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2007年01月24日(水) 11111番キリ番「月の独り言」

(注)この世界の中にリュークはいないものとして読んでください。

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一刻も早く帰りたい。夜神月はそう思っていた。

というのも朝も早い時間から千葉にあるねずみの国に竜崎―Lと遊びに来ていたからだ。しかも二人きりでは無く、もう一組男同士のカップルも一緒だった。

母の友人の息子だという進藤ヒカルと、その恋人と一緒に何故かWデートをすることになってしまったのだ。

(まったくなんでこんなことに…)

最初、話をもちかけられた時には月は非常に軽い気持ちだった。絶対にLが断ると思っていたからだ。

キラであることを見破られそうになり偽装婚約したLは、元々部屋に閉じこもり気味で、人であふれる休日のねずみ国に来たいと思うなどとは夢にも思わなかった。

しかし、行かないよね、断ろうかと話しかけた月にLはあっさりと「行きましょう」と言ったのだった。

「思えば月くんとは恋人同士の契りを交わして以来、それらしい行為を何もしていません。普通の『恋人同士』らしいふるまいというものにも興味がありますし、ぜひここは一つ、そのねずみの国とやらに行ってみようじゃないですか」

楽しい思い出を作りましょうと言われては反対することも出来ず、渋々Wデートを承諾したのだが、来て早々に後悔した。

何しろ進藤ヒカルという人間は無駄にパワフルでねずみ国内を引きずり回されてしまったからだ。

次はどこのファストパスを取る。合間に空いている所を観る。更にパレードなどの時間もちゃんとチェックしているようで右へ左へと休む間も無い。

月も決して体力が無いわけでは無いが普段部屋の中に閉じこもり頭を使う作業の方が多いので昼になるころには疲れはててしまっていた。

「なーなー、次は何乗る?何?」
「次は…ってまだ何か乗るのか」

(ちょっとは休め体力バカが)


「えー?だってまだカヌーも乗ってないし、ホーンテ●ドマンションにも入ってないし」

プ●さんのハニーハントも乗ってないよと言われてあんな黄色い熊のことなんか忘れろと思わず言いたくなってしまった。

「進藤、自分の乗りたいものばかりじゃなく、夜神くんたちにも聞かないと」

さすがに見かねたのだろう、進藤ヒカルの恋人の塔矢アキラがやんわりと会話に割って入って来た。

「すみません、彼はこういう所が大好きで暴走してしまうんです。でもきっと夜神くんや竜崎くんも行きたい所がありますよね。遠慮なさらず言ってください」
「いや、ぼくは別に……」

何か乗りたいものがあるわけでは無く、それを言ったらただひたすら家に帰りたいだけなのだがそんなことを口に出せるはずも無い。

「ただぼくは竜崎が疲れたんじゃないかなって」
「私は別に全然疲れてなんかいませんよ、月くん」


裏切りもの――――――――!


「結構体力あるんだな竜崎。でも塔矢くんも歩き通しで疲れたんじゃないですか?」

何がどうして進藤ヒカルとくっついたのかわからないこの美貌の人なら線も細いしきっと疲れているはずと、水を向けてみた所があっさりとにこやかに「いいえ」と言われてしまった。

「対局の時は丸1日飲まず食わずで打ち続けることもありますから」

それに比べたら全然疲れませんよと、職業は囲碁棋士だと聞いていたが、囲碁というものは想像以上に過酷なものなのだなということがよくわかった。

「もしかして疲れたんですか?月くん」

じっと布袋に空いた穴のような瞳でLに見つめられて口ごもる。

「いや、だからぼくは別に疲れては―」
「そうですか、それでは私はさっき乗ったカリ●の海賊というものにもう一度乗ってみたいのですが」
「あ、おれもまた乗りたい」

今居るのはトゥモロ●ランドでまるっきり反対側じゃないかと思いつつ、結局皆に引きずられて月はねずみ国を渋々横断することになった。





「そろそろ昼にしようか」

進藤ヒカルがそう言ったのはそれから更に幾つかのアトラクションをこなし、パレードを見た後で、正直月はほっとした。

「本当だもう一時半になってしまったね。どうする? どこか適当な所に入って―」

月が言いかけたのに少し照れたような顔をして塔矢アキラが言った。

「あの…実はお弁当を作って来たのでピクニックエリアで食べませんか」
「ああ、それは別にかまわないけど、僕たちは何か買って来ないと」
「大丈夫です、月くん。私もちゃんとお弁当を作って来ましたので」
「竜崎が!?」
「はい、昨夜、塔矢くんからメールを頂きましてそれで相談してお昼にお弁当を作ることにしたんです」

せっかくのWデートですから思い切り恋人同士らしくということで腕を振るいましたと言われ、Lにも少しはかわいい所があるじゃないかと思った。

「かさばるからロッカーに入れてあるんだよな。さっさと取って来て昼にしようぜ」

そしてロッカーから大きなバスケットと紙袋を回収してピクニックエリアに行ったわけだが取り出された弁当を見て絶句した。

鶏の唐揚げ、卵焼き、ウィンナーにポテトサラダ。おにぎりとサンドイッチに果物。

非常に美味そうなその弁当は進藤ヒカルの前に並べられ、月の前には何やら形容し難いモノが並べられたからだ。

「りゅ…竜崎……これはなんだ?」
「羊羹のハチミツがけです」
「こっちの一見サンドイッチ風のものは…」
「ういろうのピーナツバターサンドです」

饅頭のジャム煮や、かりんとうのチョコがけなど人類の食べるものとは思えないラインナップに手を出すことも出来ずに躊躇っていると脳天気な声で進藤ヒカルが言った。

「いやあ、夜神って本当に甘党なんだなあ」
「竜崎くんに伺いましたが、夜神くんは本当に甘いものがお好きなんですね」

進藤呼び捨て!

いやそれよりもどうして自分が甘党ということになっているのか。


「竜崎くん、夜神くんのためにメニューを一生懸命考えていたんですよ」
「塔矢さん、やめてください。恥ずかしいじゃないですか」

照れたように言われてぞくっとする。

「いや、めっちゃ愛されてるよな夜神は! ってもおれも塔矢にめちゃ愛されちゃってるけどさ」

呼び捨てやめろ!

っていうか、なんだこのほのぼのとしたムードは。


「さ、月くん。遠慮せずに食べてください」

Lはそう言ってハチミツがけ羊羹に更に一回し、ハチミツをまわしがけて月に差し出してきた。

ぼくは試されているのか?



交際を申し込んだ時にはこれと言って疑うそぶりも無かったが、その実Lはやはり自分の本心を疑っていたのではないかと月は思い、どっと汗が吹き出した。

(食べないと偽装婚約を疑われる)

それどころか自分がキラだということもLに疑われてしまうかもしれない。

仕方なく月はLの差し出した羊羹を受け取り、目を瞑りながら一気に口に放り込むとほとんど噛まずに飲み込んだ。


「美味しかったですか? 月くん…」
「あ、ああ。最高だったよ。腕を上げたな竜崎」
「そうですか、少し甘すぎたかと思ったのですが」
「いや、ちょうど良いくらいかな。最近忙しくて疲れていたから、この脳が痺れるような甘さがたまらないよ」
「そうですか、疲れているならもう少し甘い方がいいでしょう」

そう言って竜崎が残りの羊羹に更にハチミツをまわしがけているのを見つめながら、これはもしや拷問なのではないかと月は思ってしまった。




「さ、そろそろ戻ろうぜ」

喉元まで砂糖が詰まったような気分にさせられた昼食の後、再びねずみ国に戻る。

「次はどれに行く?」
「進藤くんのお勧めはなんですか?」
「そうだな、スプラッシュマウンテンなんかどう?」
「面白そうですね。月くんどうします?」
「ぼくは別に、竜崎が乗りたいならなんでもいいよ」

どれって言うかもうなんでもいいからとにかく早く帰りたい。

そんな気持ちを必死で隠しつつ、表面上はいかにも楽しんでいるかのようにふるまっていると、ふいにLが手を差し伸べた。

「なんだ? また腹が減ったのか?」

だったら何か買ってきてやろうかと言う月にLはゆっくりと首を横に振った。

「手を繋ぎましょう月くん」
「は?」
「進藤くん達はずっと手を繋いでいます。午前中観察していた限りでは恋人同士はこういう場所では手を繋ぐのが常套のようですよ」
「手……手をか?」

言われてみれば進藤・塔矢ペアは見苦しいほどいちゃいちゃと手を繋いで歩いているではないか。

「し、しかし男同士で手を繋ぐのは目立つんじゃないか?」
「私も彼らのように見苦しいほどいちゃいちゃと手を繋いで歩きたいです」

やっぱり試しているのか?

っていうかその前に心読んだ????

「手ぇつないでやれよ夜神、可愛い恋人の頼みじゃん」

それに絶対手ぇ繋いで歩いた方が楽しいからさと言われて余計なことをと思った。

「…仕方ないな」
「それから月くん。私はあれもお揃いでつけてみたいのですが」

そう言ってLを指さしたものを見て月は凍った。

「ね……ネズミの耳をか……」

屋台のように道の端に売っているネズミ耳のカチューシャは、確かにねずみ国の中を歩いている人達が大勢つけている。

「あ、いいじゃん。おれ達も買ってつけて歩こうぜ♪」

いかにもデートって感じになるもんなあと言われてこいつはバカかと思った。

(仮にも新世界の神になる自分がねずみの耳などつけて歩けるものか!)

「し、しかし少し子どもっぽいのでは…」

言葉を濁しつつ月は進藤ヒカルの恋人を見た。

(頼むからあんたの恋人をなんとかしてくれ)

少なくとも常識は遙かにありそうな塔矢アキラだったら進藤ヒカルの行動を止めてくれるものと思ったのだ。ところが…。

「皆でつければそんなに恥ずかしくはないと思いますよ」

塔矢アキラはにっこりと微笑むとそう言って、恥じらいながらミ●ーのカチューシャをつけたではないか。

こいつもバカだーーーーーーっ!



揃いも揃って脳が煮えている。

こんな子どもだましの国で常識のある大人なら考えられないようなあんなものを嬉々としてつけて歩くなんて。

しかし三対一では抵抗することも出来ず、月は仕方なくねずみ耳をつけ、竜崎としっかり手を繋ぎながらねずみ国内をまわることになったのだった。




その後のことはもうよく覚えていない。

月はひたすら帰る時間になるのを待ち、何かの修行をしているかのような気持ちで竜崎と二人で一つのソフトクリームを舐め、ミッ●ーやミ●ーやドナ●ドと記念写真を撮り、土産物屋でみやげを買いまくった。



「いやー楽しかったなv」
「本当、すごく楽しかったね」
「私も大変興味深い一日でした」

やっとのことで閉園時間になった時には月は心底ほっとした。


「今日は楽しかったよ進藤くん、塔矢くん」

誘ってくれてありがとうと、本当はもう倒れる寸前くらいに憔悴していたが、月はかろうじて笑顔でそう言った。

「でも時間が無くてシーの方まで行けなくて残念だったな」
「そうですね、またそれは別の機会に」

だれが行くか馬鹿野郎と思いつつ、にこやかに応える。

とにかくもうこれでこんな茶番ともおさらばだ、家に帰ったら絶対にこのネズミの耳も無理矢理買わされたアヒルの口も全部捨ててやると月は心の中で思っていた。

「あ、そうだ、おれ夜神達にやろうと思って持って来たもんがあるんだ」

エントランスの前で別れ、別々に歩き出そうとした時にふいに進藤ヒカルが言って追いかけて来た。

「ぼくにくれるもの?」
「ん、そう。今日の記念にと思ってさ」

進藤ヒカルはそう言うと、背負っていたデイパックの中から何やら平べったいものを取り出して月に差し出した。

「はいこれ、荷物になるかと思って最後に渡そうと思ってたんだけどうっかり忘れる所だった」

言われて手渡されたのは真っ黒いノートで、表紙には汚い文字で何とかNOTEと書いてあった。


これは!


「進藤くん……これ…」

内心の動揺を抑えつつ月が尋ねるのに進藤ヒカルはあっけらかんと言った。

「交換日記! へへへ。いや、おれ達さ、つきあい始めた頃からずっと交換日記ってやってんだよ。毎日あったこととか相手への想いを綴っちゃったりしてさ」

アナログだけど定番だし、結構愛情深まるからと言う進藤ヒカルの言葉に塔矢アキラも照れたように頬を染めている。

「なんつーか…LOVE NOTE? 良かったら竜崎と二人で使って」
「ほう、交換日記ですか。それは楽しみですね月くん」

さっそく今日はあなたが書いてくださいとLに言われて月は顔が強ばるのを感じた。

「あ、ああ、わかった」
「そうそう、それ書いたら二十四時間以内にまわさないと(相手に)殺されるから♪」
「それから書く時は相手の顔と名前を思い浮かべながら書いてくださいね」

その方が心がこもりますからと進藤ヒカルと塔矢アキラに交互に言われて月は更に顔が強ばった。

「行きたい所とか、デートの予定とか書いておくと大抵その通りになるから」
「でも有り得ない希望は書いても現実にはなりませんから気をつけてくださいね。『本因坊になった後、そのまま棋院で塔矢と披露宴』とか」
「なんだよう。本因坊にはなったじゃんか!」

デートの時には先に書いておいた予定にキスまでの詳細を書き足しても有効と言われ顔は強ばるのを通り越して引きつってしまったが、それでもなんとか笑顔を作ろうとした。

「そ、そう。わかった。その通りに書いてみるよ」
「あ、それから一番大切なこと! このノートを失くしたら所有権を破棄したことになって恋人でなくなっちゃうから」
「怖いノートですねぇ……」

ぼそっと竜崎に言われて月は思わず飛び上がる所だった。


こいつら何か知っているのか!?



「なんてね、まあ今のは冗談だから、竜崎と仲良くな」
「今日はお疲れ様でした」

にこやかに進藤・塔矢ペアが去ってしまった後も月はしばらく動けなかった。


「月くん……私たちもそろそろ引き上げましょうか」
「あ……ああ」

寒風吹きすさぶ中、気がつけばネズミの国は真っ暗で、もうまわりには誰もいなくなっていた。


「楽しみにしてますよ、月くんとの愛の交換日記」
「……ああ」
「そのネズミ耳も本当に似合いますね」
「……ああ」
「せっかくですからこのまま手を繋いで帰りましょう」

疲れすぎたのか、それとも帰り間際のLOVE NOTEに肝を冷やされたせいなのかわからないが、月はネズミ耳のカチューシャをつけ、アヒル口も装着したままぼんやりとLに手を繋がれて家に帰ってしまった。

「どうして言ってくれないんだっ!竜崎っ!」
「いや、ああいう月くんは初めて拝見して新鮮だったもので」

大変興味深かったですと言われて大切な何かを喪失したよう気持ちになった。

「楽しかったですね、Wデート。またそのうち進藤くんたちと…」

どこかに遊びに行きましょうと言われ、月は思わず二度と行くかと絶叫してしまったのだった。


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すすすすす、すみません。これがおれに出来る精一杯……というわけで、11111番を踏まれたアッシュさんのキリリク「月の独り言」でした。

アッシュさんすみません。がんばりましたがご期待には添えなかったかもしれないです〜〜〜。


とりあえずWデートクリアということで、デスノコラボはこれでお終いです(汗)お見苦しいものをすみませんでしたー。


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