SS‐DIARY

2007年01月21日(日) (SS)ヒカルの独り言


学生時代の友人の夜神さんのお宅の月くんがちょうどお前と同い年くらいで、やはり男のお嫁さんをもらうらしい。

まだまだ世間的にそういう夫婦は少ないだろうから一度会ってきたらどうだと、ある日母親に言われて塔矢を連れて夜神家に行った。


「あらあらあらあらいらっしゃい」

機嫌良く迎えてくれた母親の友人は塔矢をちらりと見ると少し驚いたような顔になり、小さくため息をついてからすぐに元のような機嫌の良い顔に戻った。

「月に話したらヒカルくん達にすごく会いたがって、今日も朝からずっと楽しみに待っているのよ」

聞けば相手も一緒に居ると言う。

「二階に居るからそのまま上がってちょうだい」

そう言われて階段を上がりかけたら塔矢は何やら手みやげを渡していて、挨拶が長くなりそうだったので先に上がった。

言われていた部屋のドアをノックして開けると最初に顔の綺麗な男が居て、ああこれがその噂の「月くん」だなと思った。

「こんちはー」
「進藤ヒカルくん?…悪いね、来ていたのに気がつかなくて挨拶もしなくて」
「ああ、そんなん別に全然気にしなくていいから」

母親が絶賛していたのも納得の当たりの柔らかい、頭の良さそうな男だった。

で、その相手の男はどこかいなとじーっと部屋の中を見据えてベッドの上に蹲るように座る姿を見つけた。

「竜崎、お客さんだよ」

うながされて振り向いたその顔を見た瞬間におれは思わず叫びだしそうになっていた。


えーと。

えーと。

えーと………。


勝ったーーーーー!!!



塔矢が誰かに負けるとかそういうことは一切考えていなかったけれど、でも無意識に引き比べてしまっていたらしい、その相手という男の顔を見た瞬間に迸るように思っていたのだった。


塔矢のが可愛い、塔矢のが美人っ!!

やっぱりおれの塔矢が世界一だっ!!!!!



そんなおれの内心の葛藤も知らずにその竜崎と言う男はおれに向かってぺこりと頭を下げた。

「こんにちは。お噂はかねがね」
「どうぞ、そんな所に立っていないでこちらに来て座ってください」

勧められて部屋の中に入りながら、この月ってヤツはものすごくマニアックな趣味なんだなあと思った。

「あの……失礼します」

おれが椅子に座るか座らないかのうちに、小さく声がして、やっと挨拶が終わったらしい、塔矢も部屋の中に入って来た。

「塔矢アキラです。はじめまして」

どうだ美貌にビビれ!おれの可愛い塔矢におののけと思ったのだけれど予想外に相手には特別な反応は現われなかった。なんだがっかりと思った瞬間だった。

「あの……無理ですよ」
「え?」

唐突に傍らのベッドから声がして、竜崎がおれに向かって言った。

「今、進藤くんは自分の恋人の美しさに月くんが驚き、反応することを期待した。でも思ったような反応が出なかった。そうでしょう?」
「あ…ああ」
「月くんはアイドルの弥海砂さんをフッて私のような非常に癖のある男を選んだ。それで導かれる結論は彼の趣味が常人のそれとは違うとういうことを意味します」

つまり私のようなタイプが好きだということだから、美しいあなたの恋人には何ら反応しないわけですよと、蕩々と言われてほうと思った。

「へー、すげえ。やっぱマニアックだなあおまえ」

思わず本音がぽろりとこぼれた。

「進藤っ、失礼だぞ」

やり取りを見ていた塔矢が目の下をほんのりと染めておれの側に来た。

「確かに彼は個性的だけれど、人の好みはそれぞれなんだから、マニアックだなんて言うのは夜神さんの人格を否定するようなものだ」
「…おまえのが結構失礼なこと言っていると思うけど」
「なんだと、ぼくはただ、キミがあんまり人に気を遣わないから……」

あわや喧嘩という寸前に夜神月がやんわりと割って入って来た。

「すみませんおっしゃる通り、確かにぼくの恋人は少し個性が強くて」
「非道いですね月くん」

裏切りですと言う竜崎の横で、にこやかな態度のまま月は続けた。

「でもこれで結構可愛い所もたくさんあるんですよ」
「……その言葉でさっきの失礼な言葉は相殺にしてあげても良いですよ」

なんだか妙なカップルだなあと思い、でも聞いていた通り仲は良さそうだなと思った。

「塔矢さんもどうぞお掛けになって。直に母がお茶を持ってくると思いますから」

その間、お二人のなれそめやお仕事のことについて伺わせてもらおうかなと、人懐こい笑顔で言う。

「おれとこいつ?」

こいつがおれのストーカーだったんだと言った瞬間に殴られた。

「子どもの頃に知り合って…何しろ彼がぼくが初めて負けた『子ども』だったので」

それからずっと追いかけて今でもライバル関係にあるのだと言う塔矢の説明に月は深く頷いた。

「追いつ追われつ」
「まるで私達の関係のようですね、月くん」

どうやら目の前の二人も同じような流れで付き合い、恋愛感情が芽生えたらしい。

「そういうスリリングな関係は自然恋愛に発展しますよね」
「さあ、どうでしょうか。でも確かにそういう傾向はあると思います」
「心理的な面からこういう関係を分析していくと――」

何故かその場で塔矢と夜神月はディスカッションを始めてしまった。

そういえばこいつ頭が良かったよなあと、こういう議論系が好きだったっけと目の前で頬を紅潮させながら話し込むのを見てぼんやりと思う。

「…進藤くんは話に加わらないんですか?」
「いや、おれ難しい話はさっぱりだし、それにあいつこういう話始めるとどんどんはまって行っちゃって長いから」

とてもついていけねえと、ため息まじりに言ったらすっと目の前にケーキの皿が差し出された。

「月くんも議論が大好きなんですよ。たぶんこのまま二時間は話していると思いますね」
「あんたは加わらなくていいん?」
「私は仕事以外で脳細胞を働かせないことにしているので」

もし進藤くんが嫌で無ければ、菓子でも食べて待っていましょうと、見ればケーキだけで無く後から後から幾つも菓子が出てくるのだった。

「この『うまい棒キャラメル味』は結構イケるんですよ」
「あ、それおれ知ってる。『うまい棒』はしょっぱい系が多いけど、たまにこういう甘いのもあるんだよな」
「私はもっぱら甘いものを食べています。駄菓子系が嫌いで無ければチロルも全種類ありますよ」
「うわ、マボロシの杏仁味じゃん」
「お好きですか?でしたらたくさんありますのでどうぞお食べになってください」


そしておれは塔矢が夜神月と何やら難しい議論を戦わせている横で、恋人だという竜崎と様々な菓子を食べながらレアものの菓子の話や、駄菓子のことなどをのんびりと話したのだった。


「それじゃすっかり長居してしまって」
「いや、こちらこそお引き留めしてしまって」

竜崎が言った通りきっちり二時間後、ようやくキリがついたらしい塔矢と月は話を止めた。

時間も結構遅くなっていたのでそのまま帰ることになったのだが、次にはぜひ一緒に食事でもということになった。

「なんでしたらWデートっていうのはどうですか?」
「いいですね、ぜひ」

おれはおれで竜崎に山ほど駄菓子をもらってほくほくと夜神家を出た。

「………楽しかった。彼はとても頭の良い人だね」
「なんでも東大に一位で入ったってことだぜ?」
「へえ…もしやったら囲碁も強くなりそうなのに」
「やらないんだって?」
「自分がしたいことの中には含まれていないみたいだよ。でもまた今日みたいに話が出来たらいいな」
「竜崎もすげえいいヤツだったぜ」
「キミもずっと楽しそうに話してたね」
「だってあいつ菓子と海外の猟奇殺人の話とかすげえ詳しいんだもん」

おまえらが議論戦わせている間、おれらはのんびり連続殺人犯の話を聞きながら羊羹食ってたと言ったら苦笑されてしまった。

「同性同士のカップルに会うのは初めてだったけど、いい友達になれそうだよね」
「そうだな。少なくともおれ、竜崎は好き」
「月くんは好きじゃないのか?」
「おれはおまえと仲良く話しているヤツはみんな嫌い」

でも羊羹にハチミツかけて食うような男を可愛いと公言してはばからないんだから、結局やっぱり好きかもと言ったら今度は苦笑ではなく笑われた。

「そうだね、二人ともとても良い人だったよね」
「今度本当にどこか遊びに行くか」
「海とか山とか?」
「いや、遊園地とかディズニーランドとか」

どうせWデートをするなら、そういう思い切りそれっぽい所に行くのがいいとおれが言うと、塔矢は一瞬考えてそれからにっこりと嬉しそうに笑った。

「ぼくたちは男同士だから、そんなふうに普通の恋人同士みたいなことが出来るなんて思いもしなかったよ」

今度休みがとれたら思い切って二人に連絡してみようと、本当に嬉しそうなその顔が愛しくて思わず抱きしめそうになりながら、夜神月にとっての竜崎もこんなふうに可愛く見えるのかなと思ったりした。


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もういい加減怒られそうなのでこれで最後。
かなり前になりますが、かわいい新妻のLにいそいそと料理を作る月というのを夢想していたことがありました。

家事全般、月がやってるんです。で、Lが何をしているかというと何もしていない。なぜなら「可愛い」担当だから(爆)


昨日の三兄弟夫婦。全員で集まった時に話していると、若島津、アキラ、月で固まってしまって、日向さん、ヒカル、Lは三人で菓子を食べていそうです。いやこれもなんとなく夢想なんですが。





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