| 2006年12月27日(水) |
5515番キリリク「ピアノ」 |
ピアノ
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「おれピアノが弾けるんだぜ」
正月の挨拶もかねて遊びに行き、昼などご馳走になっていたら、ふいに思い出したように進藤が言った。
「なんたって昔は名ピアニストって呼ばれてたんだから」
ああそういえばそうだったねと、徳利を傾けながら彼のご両親が懐かしそうに笑う。
「もー、モテてモテて、『ヒカルくんピアノ弾いて』って女の子がさぁ」
いつも周りに集まっていたものだと、言われてなんとなくムッとする。
そもそも彼がピアノを習っていたなど全く知らなかったし、そのぼくの知らない彼が女の子を侍らせて悦にいっていたということは例え昔のこととは言え、非道く、非道く不愉快だったからだ。
なんとなく無口になったぼくにかまわず進藤は喋りまくり、挙げ句の果てにピアノを聞かせてくれると言い出した。
「いいよ…別に」 「ダメ、おまえにもおれの素晴らしいテクニックを見せてやるんだから」
軽く酔っぱらっているせいもあるんだろう、彼はあくまで強引でぼくがやんわりと断ってもはっきりと睨み付けても引っ張る腕を離さなかった。
「ごめんなさい、塔矢くん。行けばきっと気が済むと思うから」
どうかあの子のピアノを見てやってちょうだいよと何故か苦笑しているのが気になったが、それ以上他人の家で押し問答しているのも失礼だと仕方なく立ち上がった。
「こっちこっち」
部屋にあった覚えは無いけれど、家の中のどこかにピアノが置いてある部屋があるのだとぼくは思っていた。
けれど彼は何故かぼくを庭に連れ出し、隅にある物置に引っ張って行ったのだった。
「さ、ここ、ここ」
ここにおれのピアノがあるんだと、こんな所にピアノを保管するなんて何事だと思いつつ中を覗いたぼくは彼が指すものを見て呆気にとられた。
「…なんだこれは!」 「ピアノだよ、おれの愛ピアノ!」
三歳の誕生日にサンタクロースにもらってしばらく弾きまくってたんだと。
幼稚園にも全く同じものがあったらしく、彼は流しのピアニストよろしく、覚えた曲を女の子に披露していたらしい。
「弾いてみせようか」 「…何が弾けるんだ?」 「うーんと、さくらさくらと、ねこふんじゃったと、ぞーさん?」
すげえだろうと言いつつ、彼が人差し指でぽんぽんと鍵盤を叩くのをぼくは苦笑しつつ見つめた。
「うん、本当に…すごいね」 「そ、もーモテモテ。モテ男だもん、おれ」
確かにそれはモテただろうと自分の笑みが、苦笑から素直な微笑みに変るのを感じながらぼくは思った。
(だって彼は今でもこんなに可愛い)
こんなにも無邪気に明るく、人懐こい。
あっけらかんとして影が無く、彼が子どもの頃から変っていないのだとしたらそれは人気があっただろうと容易に思えるのだ。
(可愛いなんて言ったらきっと怒るだろうけど)
それでも一本指でぎこちなく「さくらさくら」を弾く彼の姿はやはりぼくには可愛かった。
「…ぼくも同じ幼稚園だったらよかったのにな」 「なに?一緒に弾きたかった?」 「ああ、そうだね。キミと連弾したかったかな」
ペア碁みたいで楽しそうだよねとぼくが言うのににっこりと彼は笑い、おもちゃのピアノを指さした。
「いいじゃん、今からでも弾こう?」
ねこふんじゃったは指一本では弾きにくいから右手と左手に別れてやろうぜと、言われて笑いながらぼくは従った。
たどたどしく、ね、こ、ふ、ん、じゃ、っ、たと二人で奏でる。
それは安っぽいおもちゃのピアノの音色だったけれど、ぼくの耳には幸せに溢れるオーケストラの響きにも聞こえたのだった。
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ということで5515番をゲットしてくださったへいこさんのリクエストで『ピアノ』でした。
三歳の誕生日にサンタはもちろん特撮ヒーロー物のおもちゃもくれましたが、一回弾いたら思った以上に褒められたのでヒカルはすっかり調子にのってしまったというわけです(笑)
ちなみにこの二人はまだ一緒に暮らしていません。十八くらいかな?
ちょうど月曜に「のだめカンタービレ」のドラマが最終回だったこともあり、千秋とのだめちゃんを思い出しながらも書けました(笑)
へいこさん素敵なリクをありがとうございましたvv
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