Lechenaultia(レシュノルティア)
通りがかった花屋で、ふと目について買った鉢。
何が良かったというわけでは無いのだけれど、ぽちりと咲く赤い花を見た時にベランダの鉢植えを枯らしたことを思い出した。
聞けばそれは丈夫で寒さにも強いという。
(じゃあ、代わりに買っていこうかな)
自分でも呆れるくらい植物を育てるのが下手なくせに、それでもベランダに緑が無いのが寂しくて、気がついたら財布を取り出したいた。
『どうせまた、枯らしちゃうくせに』
進藤が見たらきっとそう笑うだろうけれど、ぼくだってそうそう枯らしてばかりはいない。
「…今度はちゃんと育てられるさ」
増えると言われたそれでベランダを一杯にして、もう二度と不名誉な言われ方をされないようにするのだ。
家に帰るとぼくは早速パソコンで花のことを調べてみた。
聞き慣れない名前なのであるかなと思ったのだけれど、意外にもたくさんヒットして、ぼくはそれがオーストラリア原産の花だとか、他にも色々な種類があるのだとかいうことを知った。
そして…。
「…初」
思いがけない日本名がついていることもぼくは検索で知ったのだった。
Lechenaultia 日本名 初恋草
「こんな名前だったなんて」
幾つかある種類の中には青い花もある。「初恋」というのは、その色合いの切なさからついたのかもしれないとぼんやりと思いながら、同時にぼくは進藤には教えないでおこうとそう思った。
「知られたら一体何を言うか」
言うまでもなく想像がつく。
『なあなあ、おまえの初恋ってだれ?』
そう聞いてくるに決まっているのだ。
『おれの初恋は幼稚園の先生。おまえは?』
しかもそういう時の彼は結構しつこい。ぼくが満足する答えを言うまで、ずっと聞き続けるのに決まっているのだ。
『なー、教えろよ、誰?』
答えられず、真っ赤になる様を彼はきっと楽しむだろう。 そういう少し意地悪な所が進藤にはあるから。
「まあ…知られなければいいことだし」
花と言えばひまわりとチューリップしか知らない進藤には、教えさえしなければこの花の名前はわかるはずも無い。
「よかった…進藤が花オンチで」
そう思いほっと安堵したぼくは、やがてやってきた進藤にあっさりと「あ、初恋草」と言われて仰天したのだった。
|