SS‐DIARY

2004年11月10日(水) (SS)recipe

セロリなんて人間の食うもんじゃないと思ってたと、そう言ったらあいつはおかしそうに目を細めた。

「キミは、結構好き嫌いが多いからね」

匂いのキツイ葉物はだめだし、口触りが悪い物も嫌い。まるで子どもみたいだと笑われてさすがにちょっとむっとする。

「なんだよう、だから今は食べる努力をしてるじゃんか」


向かい合い食べる夕餉の支度は、自分の方が早く終わったからとあいつがさっさと用意してしまった。


牛肉とセロリの煮物と、かぼちゃのガーリック炒めとまぐろのヌタ。わお、天ぷらがあるじゃんと歓声をあげたらそれは煮物に使ったセロリの葉を挙げたもので少し、いや、かなりがっかりした。


「げー、おれセロリ嫌い」

みそ汁にもおれの嫌いな茄子が入っているしと並んだ料理に思わず文句をたれてしまったら、とにかく黙って食べてみろと言われたのだった。


「ぼくはそんな、食べられないような味のものは出していない。文句を言うなら食べてからにしろ」

それは確かに最もなので、おそるおそる天ぷらから食べてみた。


セロリなんて匂いキツクてサラダに入ってる時は全部避けるのにさあと思いながら口に入れてみたら意外なことにおいしかった。


「…」
「おいしいだろう?」

思っていたのとは違って口当たりもよく香りも良くてとまどっていると、薄く笑ってあいつが言った。


「ほら、正直に言え。おいしいだろう?」
「う…不味くは…無い」

素直においしいと言うのも悔しくてついそんな口をきいてしまったら、あいつは呆れたようなため息をついて、それから今度は牛肉の煮物の方を勧めてきた。

「じゃあこっち。これもキミの嫌いな味では無いと思うよ」

いくら牛肉と一緒だからってさあと、これまた文句をたれながら食べたら悔しいことにこれもとても美味しくてそれを顔に出さないようにするのにおれは苦労してしまった。


ほろ苦い後味がふきのようで、薄く味付けした牛肉ととても合っている。
うん、好き。この味は好きだとそう思う。


「どうだ?」

これでも不味いと言うつもりかと、軽く睨んでおれを見るので、観念して口を開いた。

「ごめんなさい、降参です」


悔しいけど、めっちゃ美味いと言ったら途端にぱっとあいつは笑顔になった。


「そうか、よかった」

セロリが嫌いな人でも食べられる料理って芦原さんに教えてもらったんだけど、キミがおいしいと思うかどうかわからなかったからと、なんとなく聞き流しかけてふと箸を止める。


「これ、芦原サンに教わったの?」
「―うん?」

そうだけどそれが?と首を傾げあいつはえおれを見る。


「えーと、それってつまり、おれのために―わざわざ教わってきてくれたわけ?」

うんと言いかけてあいつはようやく気がついて口を閉ざした。

「違―」
「嘘、聞いたもんね」


セロリの嫌いなおれのために、おれが食べられるような料理をあいつは教わりに行ったのだと、それがなんだかバカみたいに嬉しかった。


「…だってキミは結構偏食だから。少しずつでもそういうのは直して行った方がいいと思って」

心なし目の下を赤く染めながら、あいつは恥ずかしそうに俯いて言った。


「大体キミは食わず嫌いなんだ。もう少し色々食べるようにすれば…」
「うん」

少し前、おれが非道い風邪をひいたときのことをあいつは思い出しているのだとなんとなくわかった。

あの時も不摂生だからとキツく怒られたのだけれど。


「食べて見れば結構食べられるものなんだから、これからはもっと苦手な物も食べるようにしろ」
「んー、でもどうかなあ。これは美味いけどさー他も美味いかどうかわかんないじゃん?」
「だからとりあえず食べてみ―」
「またおまえが作ってくれるなら」


遮るように言うとえ?と驚いたような顔をされた。

「おまえがまた、作ってくれるんんらおれなんでも食う」

だからまた、芦原さんに聞いてきてよ、おれのためにとそう言ったらあいつは箸を持ったまま真っ赤になった。


「どうしてそういう…」

恥ずかしいことを臆面も無く言うのだと、もそもそと口の中で言うのがすごくかわいいと思った。

「んー…いや、だってさ。おれ、マジで苦手なもん多いじゃん?でもきっとおまえの作ったものなら食べられると思うからさ」
「そ…そんな、そうそういつも甘やかしてなんか」
「ダメ?」

どうしてもダメ?今食ったこれ、すげー美味かったんだけどもと言ったらあいつは少し考えて、それから困ったように笑った。

「まったく…キミには負ける」

全部残さずに食べるならいいよと、言うので残すもんかと言い返してやった。

「おまえが作ってくれるんなら、ピーマンでもゴーヤでもなんでも食う、おれー♪」
「じゃあまた今度、芦原さんの時間があるときにでも教わってくるよ」


キミの気持ちが変わらないうちに、キミの嫌いなものばかりで料理を作ってやると。

少し赤味の残る頬であいつがイタズラっぽく笑うから、おれは愛しさでたまらなくなってしまい、無理矢理こちらを向かせると、料理より先にあいつを食ってしまったのだった。

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ヒカルに嫌いなものを食べさせるシリーズ?(嘘です)
第2弾。

こうしてアキラはどんどん料理が上手くなっていってしまうわけです。


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