| 2004年10月31日(日) |
(SS)Trick or Treat |
「いくらなんでもこれはあんまりなんじゃねぇ?」
向かい合う夕餉の席で、煮物に箸をつけながら進藤がぼそっとつぶやいた。
「どうせかぼちゃ食うならさー、煮物じゃなくてパイとかケーキとか」 「文句があるなら別に食べなくていいよ」
作らせておいて文句を言うなと言ってやったら一瞬黙り、でもまだ未練があるらしく、もそもそとかぼちゃを食べながらまだ言っている。
「だってさー、これじゃ冬至みたいじゃんかー。せっかくおれかぼちゃ買ってきたのにー」
ちょっと買い物に行くと言って出かけた進藤は、町中で何を見てきたものか戻ってきた時には手にごろりと丸いかぼちゃを一つ持っていたのだった。
これでなんか作ってと、だからせっかく煮物にして出してあげたのに。
「大体あれは日本の行事じゃないじゃないか」 「だけど楽しそうじゃんか。おれもやってみたかったんだって」 「いい年して、お菓子をせびりに近所を歩くつもりか? 警察に通報されるぞ」 「だからー、そうじゃなくて」
なんでもいいからハロウィンぽいことをおまえとしたかったんだってと、夕食が終わった後も言いながらごろごろと畳の上を転がっている。
「キミは子どもか?」 「いいよう、もう好きに言えよう」
すっかりいじけてしまっているのを見ていたらなんだかかわいそうになってしまった。
「じゃあ…やってあげようか?」 「えっ?」 「ハロウィン。パイやケーキはさすがに今からは作ってあげられないけど」
代わりにもう一つの方ならやってあげてもいい。
「もう一つって?」 「Trick or Treatの方」
イタズラかお菓子か。 お菓子か、イタズラか。
「って、さっき自分で警察に通報されるって」 「別に外でやれなんて言ってない」
ぼくに言えばいいんだと、そう言ったら進藤は更に困惑したような顔になってしまった。
「お菓子…くれんの?」 「いや、お菓子なんかあげないよ」
買ってないし、さっき言ったように作ってもあげない。
「じゃあ何くれんだよぅ」
からかわれていると思ったのか、拗ねたような口調になった進藤にぼくは笑いかけると自分自身を指さした。
「お菓子はあげられないけどね、甘いキスなら」
してあげてもいい。
「って…ええっ?マジ? えー????でも、じゃあイタズラの方は?」 「すればいい」
ぼくにイタズラをすればいいんだと、そう言ったら進藤はものすごい速度で首まで真っ赤になってしまった。
「どうする?どっちがいい?」
Trick or Treat
イタズラか、甘いキスをどうか私に―。
「Trick?」
ぶんぶんと進藤は首を横に振る。
「じゃあTreatの方?」
ぶんぶんとさっき以上の勢いで進藤は首を真横に振った。
「なんだ両方いらないのか? 無欲だなあ」と、そう言ったらこれにもまた進藤は首を横に振ったのだった。
「え?じゃあ結局どっち―」
言いかけたぼくの前に、ずいと乗り出して来ると進藤はちゅと照れたようにキスをした。
「両方」 「え?」 「おれ両方がいい」
言いながら、もう指はぼくのシャツにかかっている。
キスとイタズラ。
どちらを選ぶことも出来ないから両方欲しいと、ねだるように言うのに笑ってしまった。
「欲張りだなあ」 「だめ?」 「いや…」
いいよと言うと嬉しそうな顔に変わる。
「そんじゃ遠慮無く」
まずはキスからねとそう言われ、ぼくは我が儘な恋人に死ぬほど甘いキスを受けた後、今度は気を失うまでイタズラされたのだった。
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バカっぷるっちゅーことで。駆け込みハロウィンネタでした〜。
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