SS‐DIARY

2004年10月30日(土) (SS)キミが帰ってくるまでに

『ごめん、やっぱ寒いデス』

そんなメールを最初に、それから進藤は呆れるほどまめにメールを送ってきた。

『緒方センセイノリノリ』
『司会下手くそ』
『弁当冷えててマズイ』


おまえの作ったみそ汁飲みたい。あ、それよりも先におまえのいれてくれた紅茶飲みたい。


『ここの茶は緑も紅も殺人的に不味いデス』

って普段はコーヒーの方がいいとかたまにはココアがいいとか、文句ばっかり言った挙げ句、飲まないでそのまま冷ましてしまったりするくせに、こういう時ばかり甘えたように言ってくる。


『なんかあの、呪文みたいな茶が飲みてー』


呪文ってなんだとしばし考えて、もしかしてニルギリかと笑ってしまった。

一応飲む時にはその茶の名前も教えてやってはいたのだけれど、ほとんど聞き流しているものとばかり思っていた。

(少しは頭に残っていたんだ)

進藤にしては大したものだとそう思う。


『牛乳入れて砂糖もちょっと入れて、そんでもって生姜入れたヤツがいい』

ばかに注文が細かいけれど、ちゃんと仕事はやっているんだろうなと心配になってしまう。


『カップはあれがいいな。いつだったか先生が中国から送ってくれたヤツ』


と、カップの指定までしてきた時にはさすがに呆れてしまった。


「まったくもう、キミはぼくのことをなんだと思っているんだか」



都合のいい、家政婦か何かと間違えてはいないか?


「…少し怒ってやるか」


どうもぼくは彼に対して非常に甘いらしいから―。


「キミなんか、ティーバックで十分だ―っと」


打ち終えて、送信しようとした所でメールの着信音が響いた。

「…進藤だ」


またどんな我が儘をと、ため息をつきながら見てみる。


『だってさ、おまえがいれてくれたのが何より一番美味いから』


おれのためにおまえがいれてくれる。それより美味い茶なんかないもんなと、こんなこと言われたら怒るに怒れないではないか。


「もう…キミは狡い」


送るつもりだったメールを消して、代わりに「わかった」と返事を打つ。


「ちゃんと用意して待ってるから」


カップも部屋も暖めて、キミが帰ってくるのを待っているからと。


甘いと。

信じられないくらい自分は進藤に甘いとそんなことはわかっているけれど、でも喜ぶ顔を見たいと思うから。


「―お茶くらい何杯でも入れてあげるよ」


(だから寄り道しないで帰って来い)


打ち上げとか、誰に誘われても着いて行かないでまっすぐにぼくの所に帰って来いよと、ささやくように言って携帯にキスをする。


してしまってから一人、恥ずかしくなったりもしたけれど。


「―ちゃんと仕事をしてくること」


少しキツめにメールを書いて、送信してから上着を羽織る。

「お茶と…何かお菓子も買ってこようか?」

どうせ甘いのだったら、思い切り甘やかしてしまえと、頭の中で買うものを考えながらぼくは切れているニルギリを買い足すために外に出たのだった。

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良妻VSバカ亭主。甘い言葉でやや亭主優勢。


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