夜中、喉が渇いたので台所に行き、コップに水を一杯ばかり飲んで戻った。
なるべく音をたてないように襖を閉めて、さてまた寝るかと思った時に投げ出された足に気がついたのだった。
(うわ、こいつ寝相悪ぃ)
一つ布団で眠っている塔矢の、片足だけが畳の上に大きくはみ出しているのだ。
いつもきっちりと乱れなく眠っているようなそんな印象があるので、こんなふうに寝乱れているのがおかしくて、ついまじまじと見てしまった。
「そういえばこいつ…暑がりだったっけ」
涼しげな見た目をしているくせに、布団で蒸したように暑くなるのは嫌いで、そういえばよく、行為の後などに片手だけはみ出させて寝ていることがあった。
今日もそういうことをしなかったわけではないので、ではやはり暑かったのだろう。
「おっかしーの」
くすくすと笑いながら、でも、はみ出した足から目が離せない。
闇の中に無防備に晒された足は、常よりも更に色が白く見えて、非道く、非道くなまめかしかった。
見ているうちにごくりと生唾が沸き、ぼんやりと色ぼけたことを考えてしまう。
(…内股に歯をたてたらどうだ?)
抱え上げ、足の指の先から舐ったらどうだろうとつい考えてしまう。
あの白い肌が柔らかくて美味いことを自分は誰よりもよく知っているから。
歯をたてた時にあげる声も、撓るであろう体の線もよく知っているからこそ、つい考えてしまう。
もう一度食らったらどうだろうか―とそこまで考えてゆるく頭を振る。
(ヤリ過ぎだっちゅーの)
夕べもう十二分にしたというのに、これ以上やったら明日に差し障りが出てしまう。自分はともかく塔矢は如実に疲労が体に出るので、対局前にそこまで体力を消費させ、疲れさせるのは嫌だった。
「…まったくもう、こんな美味そーなもんはみ出させておくから」
だからおれが欲情しちゃうんじゃんかと、ほとんど八つ当たり気味につぶやきながら、はみ出した足を布団の中にしまってやる。
「…なに?」
すると、それで目を覚ましてしまったらしい、塔矢が薄目を開けて聞いてきた。
「どうかした?進藤」 「ん? なんでもない。ちょっと布団かけ直しただけだから」 「…そう」
だったら早く布団に入らないと風邪をひくよと、眠たそうな目がおれを見る。
実際体が冷えてきてしまっていたので慌てて布団に入ると、あいつがいきなりぎゅっと抱きついてきた。
「冷たいじゃないか」
体が冷えていることを叱るように言われて、でもおまえは冷たいのが好きなんじゃんかとそう言い返してやる。
「暑いのは嫌いだって言ってたくせに」
だからわざわざ冷やしてやったんだと、そう言ったら「バカ」と笑われてしまった。
「…確かにぼくは暑いのは嫌いだけどね」
でも、キミの体の熱は好きなんだよと、とてもとても好きなんだと、それだけ言うと、そのまま安心したようにすうと塔矢は眠ってしまった。
「って…ちょっと、おい」
寝とぼけた塔矢ほどたちが悪いものは無い。さっきは微かな気配に目を覚ましたくせに、今度は軽く揺さぶったくらいでは全く目を覚まさないのだから。
「言い逃げかよ」
確かに今度はもう体のどこも布団からはみ出させるようなことはなくて、さっき言った言葉は本当なのだとそう思った。
暑いのは嫌いだけどおれの体の熱は好き。
はっきりと起きている時だったら、そんなこと絶対口に出したりしないくせに。
規則正しい呼吸の音と共に、胸元から漂ってくる塔矢の肌の香は甘いくせに凶悪だと思った。
「んなの、おれだって」
おれだっておまえの熱は大好きだと、大好きで大好きでもっと感じたくなってしまうのだと。
思っただけで体は火照り、いらぬ所が強ばりそうになってきたので、おれはそっと片足を布団からはみ出させると、行き場の無い熱を冷えた空気の中に逃がしたのだった。
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