そういう夢を見たことが無いわけでは無かったけれど、その日のそれは妙にリアルで、夢だとわかっていたけれど泣いてしまった。
泣いて、目を覚ました時もまだ泣いていたので、隣で寝ていた塔矢にめざとく見つけられてしまった。
「…どうしたんだ?」
何か悪い夢でもと言われて、ついこくりと頷いてしまう。
「大丈夫?キミが泣くなんて、余程嫌な夢だったんだね」
そういう夢は人に話してしまった方がいいんだよと言われて、でも言えなかった。
だって見たのは塔矢がおれを捨てて、どこかの女と結婚してしまう夢だったから。
『ごめんね、でもぼくたちは、きっとこうした方がいいんだよ』と、話す口調が非道くリアルで、だから胸が痛くて死にそうだった。
『キミもどうか幸せになって』
そんなのおまえがいなくて幸せになんかなれるはずがないのにと、女の手を取って式場に歩いていく背中を見ながら泣いている所で目が覚めたのだ。
我ながら女々しい。 でも痛いとこ突いてる。
おれはいつも心の底で、こいつが去って行くことを恐れているから―。
「…どうした?どんな夢だったんだ?」 「……」 「なに?聞こえないよ」
優しい声に促されて、ためらった後におれは言った。
「…ドラえもんが」 「え?」 「ドラえもんが未来に帰っちゃう夢」
たっぷり2分ほど黙った後であいつは呆れたように言った。
「…それで、そんな夢でキミはあんなに涙を流していたのか?」 「だって…すげー悲しかったんだよ」
だってやっぱり本当のことは言えないから。言ってしまったら本当になりそうで恐くて恐くて言えなかった。
「…だって、おれはすげえ、悲しかったんだよ」
さよならと背中を向けられて悲しかった。 もう一緒にいられないんだと思ったらそれがすごく切なかった。
あれがもし現実だったらおれはきっと死んでしまう。
「まあ夢は…夢の中の悲しみは普段感じる悲しみよりも、ずっと辛く感じるからね」
また思い出して泣き出しそうになったおれを塔矢はしばらく見つめ、それから大きくため息をついておれの体に腕をまわした。
「ドラえもんのかわりにはなれないけど、少なくともぼくはずっと一緒にいてあげるから」
それで我慢しろと、まるで子どもをあやすように、ぽんぽんと背中を叩いてくれた。
「…キミは本当に相変わらずわからないな」
でもキミのことが大好きだよと、優しい声で言う。
永遠にずっとキミのことが大好きだよと、どうして何も知らないくせにおれの一番欲しい言葉をちゃんと知っているんだろうと、それに余計切なくなりながらおれはつぶやいた。
「ん、ありがと。ごめんなガキみたいなこと言って」 「いやこちらこそ役不足でごめん」
おれにとってはドラえもんなんかよりおまえのが五百万倍必要なんだよと、すごくすごく言いたくて、でも嘘をついた手前言うことも出来ず、おれは黙って慰められるままになったのだった。
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若干1名様用デス。わはは。
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