「いいものをあげる」
そう言われて小さな和紙の包みを手のひらに載せられた時、なんだかわからなくてつい「食い物?」と聞いてしまった。
「食べるなら食べてもいいけど、きっとお腹から芽が出るよ」
くすくすと笑われて、目の前で開かれた包みの中には、ころりと小さな粒が三つばかり入っていた。
「…なにこれ」
正露丸?それとも仁丹か何か?と聞いたら「花の種だよ」と苦笑しながら言われてしまった。
「花って」 「風船葛」
ふうせんかづらと、聞き慣れない名前を言われて首を傾げてしまった。
なにしろおれのボキャブラリの中には、花と言えばタンポポとひまわりとチューリップと桜くらいしか入っていないから。
「春蒔きの花でね、結構たくさん種が出来たからキミにと思って」 「おれにってなんで?」
おれは別に植物に興味なんかないし、まともに育てたことも無い。 どちらかというと枯らしてしまうのが専門なのに、なんでおれにくれるんだよと言ったら、あいつは何故か曖昧な笑みを浮かべた。
「…別に、枯らしてしまってもいいよ。さっきも言ったようにたくさん種が取れたから、お裾分けにと思っただけだし」
おもしろい種だからキミに見せたかっただけだしと言われてよくよく見てみると、その種はどれも一つずつハートに似た模様がついているのだった。
「わ、ほんとだ。かわいいじゃん」
現金だと言われればそれまでだけど、まるで描いたようなその模様がおもしろくて、おれの種への興味は一気にぐんとアップした。
「おっもしろいなあ」
ひっくりかえしおっくりかえし見るおれをおかしそうにあいつは見つめた。
「気に入った?」 「ん、こーゆー変なのおれ好きー♪」 「そう。だったらよかった」
結構簡単だから春になったら蒔いてごらん、花も葉もおもしろいよと言われて持ち帰ったおれは、その種がどんな植物になるのか見たくなって、ネットで早速調べてみた。
「ふ・う・せ・ん・か・づ・らと、あったあった」
ずらずらと出てきた検索結果をクリックして、葉や花をながめていると、ふと思いがけず、花言葉というものを見つけた。
「風船葛の花言葉? こんなのにも花言葉なんかあるんだ」
普段そういうのに全く興味は無いのだけれど、こんなおもしろい形してるんだから、花言葉も変なのではないかと思った。
(あいつ知ってっかな)
知らなかったら教えてやろう。種をもらったお礼にって、明日、茶にでも誘ってそれで教えてやろうっとと思いながらおれは上機嫌で画面をスクロールして書いてある文字を読んだ。
「えーと、なになに? 風船葛の花言葉は…」
『―あなたとともに』
あなたと―
―ともに?
えっと思ってその後、かーっと一気に顔が火のように熱くなった。
「え…嘘…マジ?」
こんな、まるで、だって。
「愛の告白みたいじゃん…」
そう思った瞬間、種をおれにくれた時のあいつの曖昧な笑みが脳裏に蘇った。
『いいものをあげる』 『キミにあげようと思って』
もしかしなくても、あれには深い意味があったのだろうか? ちゃんと花言葉を知っていて、それであいつはおれにこれをくれたんだろうか?
だったら…。 だったらそれって…。
(おれとずっと一緒にいたいってそういうこと?)
普段めったにそれっぽいことを言わないあいつだからこそ、こんなふうに遠回しに気持ちを伝えるというのはありそうなことだった。
おれが気づけばそれで良く、気がつかなくてもそれでいいと、そんなことをあいつは黙ってしそうだから。
「うわぁ…どうしよう、おれ」
そんな大事なものを非道く気軽にもらってしまったよと、ちょっと一人で慌てふためき、でもそんなことをしても仕方がないのでまた大人しくパソの前に戻った。
「あー、もうだってしょうがねーじゃん。おれ花言葉なんか知らねーし…」
おれはおまえみたいに風流じゃないし、色々なことに知識が深くないんだよと、つい種に向かって愚痴ってしまう。
「まったく…どうせ言うんならもっとはっきり言ってくれればいいのに」
でもとにかく、この種は絶対になくせないし、蒔いたら枯らすことも出来ないとそれだけはしっかりと肝に銘じた。
(枯らしたりしたら縁起悪いもんな)
滅多にもらえない愛の言葉。 次にもらえるのはいつになるのかわからないから。
大事に大事に育てるんだと、まだ蒔き時は半年以上も先なのに、おれは真っ赤に顔を火照らせながら、これ以上ないほど真剣に「風船葛」の育て方を調べ始めたのだった。
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風船葛(ふうせんかづら)の種を夏コミの時にお嫁ちゃんにもらいました。本当にすごくかわいい種なんですよ。
で、せっかくもらったものだから絶対に枯らしたくないと日差しがもう少し弱くなったら蒔きましょう(いや、ベランダの植物群が日々枯れていってしまってー)などと思っているうちにすっかり蒔き時を逃してしまったんですよね。
なのにそろそろ涼しくなったからとつい先日植えちまって、意気揚々と「蒔いたよーん」と報告して「春になってから蒔いた方が(TT)」と嘆かれてしまったのでした。わーんごめんよう。植物オンチなんだよ。
でも大切に育てるから〜ということで、ヒカルにも一緒に風船葛を育ててもらうことにしました。←おい。
いや、ヒカルもやりそうとか思って(−−:
花言葉は本当です。なんつーか種の模様と言い、花言葉と言い、らぶらぶなヒカアキちゃんにぴったりな花なんではと思いました。
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